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確かに自分はまだ駆け出しのバーテンだ。けれど『シルク』の看板を背負って提供しているものなのだから、中途半端な味の物は決して出すことはない。それに丈治だって、「――これがお前の味だ。年とればまた味は変わってくるだろうが・・・。今はこれでいい」、と言ってくれたのだ。――――――それなのにこの男は、さも不味そうに顔を顰め、一口だけ舐めた美律の作ったカクテルを自分の視界の中から遠ざけた。
―――こんな屈辱、味わったことがない・・・ッ!
美律の肩が、怒りで震え出す。――――――その時だった。
「―――俺の店の味に文句付けるつもりで来たんなら帰れ。・・・美律。ちょっと煙草買って来い」
俯いた美律の髪をくしゃっと撫でて、丈治は震える美律の手に千円札を握らせた。
美律は小さく頷くと、顔を上げないまま静かに店の外に出て行った。
「――――はっ・・・。随分とまぁ甘やかしてますねぇ」
美律の出て行ったドアに視線を向けたまま、呆れた声で男が呟く。丈治は不機嫌そうに鼻を鳴らし、男を睨み付けた。
「余計なお世話だ。―――伴・・・。お前、何しに来た」
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