プロローグ

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『シルク』の丈治を知らない者がこの界隈で店を開くことは許されない、と言われるほど存在感のある人物なのだ。 ・・そんな丈治に育てられた美律は、実は私生児としてこの世に産まれた。父親が誰なのかは知らない。 母親は必死に働き、誰に頼ることなく女手ひとつで美律を育てた。――――いや、育てようとしていた。 美律が6歳を迎える年、唐突に母親はこの世を去ってしまった。 25歳という若さで最愛の息子を残し、ひとり旅立って行ったのだ。・・・過労による心疾患だった。 一緒に過ごした時間は多くはなかったけれど、愛されている実感はいつもあった。 保育園までの短い道のりや、眠るまでの僅かな時間の親子の触れあい、眠ってからも傍に感じる母の温もり・・・。確かに自分は愛されていたと美律は記憶ではなく感覚として覚えている。 遺された美律は唯一の肉親である祖父の丈治に引き取られた。それまで一度も会ったことのない人。
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