プロローグ

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次の瞬間。大きな手が美律を掬い上げ片腕で抱えた。そして体に直接響く様な低い掠れた声でぶっきらぼうに言った。「―――呼ばれ慣れねぇが・・・まぁ、悪くねぇ」そう呟いた祖父の顔を、美律は今でもはっきり覚えている。ピアスだらけの耳が真っ赤になり、眉毛は情けないほどのハの字、口元を複雑に歪ませ苦笑するその表情は、喜びを必死に隠しているように見えたから。 それで安心したのかもしれない。美律は母がいない寂しさはあったけれど、一人になったとは思わなかった。母親の代わりにきっと祖父が、自分を守り愛してくれると無条件に信頼できたから。 わかりやすい愛情表現はなかったけれど、誰の目から見ても孫が可愛くて仕方がないのだろうなとわかる程、丈治は美律を自分の傍から離さなかった。 見た目からは50代半ばには見えない若いおじいちゃんと、その周りをうろちょろと歩き回る可愛らしい男の子は、夜の街ですぐに話題となった。 “あの”シルクの丈治に孫がいた。しかも溺愛しているらしい・・・と。
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