プロローグ

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店の奥に居住スペースがあったため、美律は寝るまでのほとんどの時間を『シルク』の片隅で過ごしていた。元々人見知りをするような子供ではなかったので、声をかけられればにっこり笑いきちんと挨拶もできたし、店の雰囲気を壊すような子ども特有の我儘を言う事もなかった。 常連客から可愛がられ、噂を聞きつけやって来た夜の街の住人たちにも構われながら、ある種、店のマスコット的存在になった美律はすくすくと、真っ直ぐに成長していった。 そして月日は経ち、高校卒業を間近に控えたある日、美律はずっと心に決めていたことを丈治に告げた。 “俺はシルクの2代目になる”――――幼い頃から祖父の働く姿を見て育った美律にとって、それは当然の選択だったのだろう。丈治にそれを止める事はできなかった。 なぜなら・・・。――――丈治自身がそれを望み、下された決断を心底喜んでいたからだ。 ――――そんな経緯があり、現在。 20歳になった美律は、『シルク』のバーテンダーとしてシェイカーを振っている。 殺人的な混雑はしない。 けれど営業時間内で客が途切れる事もない。
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