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気になるのは車か、それとも…
「―――ねぇー、じいちゃ~ん。隣のビルに停まってる車、見た?」
閉店後、夜食として作ったチーズオムレツを頬張りながら、営業中の話し方とは全く別人の甘えたような口調で美律は丈治に話しかける。両頬いっぱいに食べ物を詰め込んでもぐもぐと咀嚼する美律を呆れた様にチラリと見て丈治は、「・・・カレラか?」―――オムレツに使ったチーズの残りをつまみにワインを煽りながら聞き返す。
「そうそう!あれかっこいいと思ってさ。どんな人が乗ってるんだろ?じいちゃん知ってる・・・?」
「知らねぇな。―――大方ビルのオーナーか、上の部屋の住人だろ」
「うーん・・・。でもさぁ、オーナーとかならじいちゃんに挨拶来るだろ?つか、もう来た?」
「来ねぇよ。それに全部の店の人間が必ず来るわけじゃねぇし。それにテナントも埋まってねぇビルのオーナーに挨拶来られても正直困る」
まぁ不況だからな、何処も彼処も。――――丈治は言い、そこで会話は一旦途切れた。
この先の見えない不況真っ只中に、『シルク』の隣に突如建った5階建てのビル。
2階までは飲食店などのテナント用、3階から上はどうやらマンションになっているらしい。
この夜の街で何か始める際、丈治の所に挨拶に来るというのが暗黙のルールだ。
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