気になるのは車か、それとも…

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もちろんそれを丈治は強要しているわけでもないし、望んでいるわけでもない。長い年月の間にいつの間にか周囲からそのような立場に祀り上げられていた、というのが正しい表現かもしれない。 美律にすれば祖父のその立場は誇らしくはあったが・・・、それよりも不安や憂いの方が大きかった。 例えば。挨拶を省いたオーナーが無事に店をオープンさせたとしても、その半年後には店を閉めてしまう、とか。挨拶に来たとしても秩序を乱す強引な客の奪い合いや、足の引っ張り合いなどをしたなどと聞こえてくればいつの間にか街の中から孤立していた、とか。 そうなってしまう理由はただひとつ。―――筋を通さなかったから。 この街にはこの街なりのルールがあるらしい。それを怠ったがために同業者たちから省かれて、気付いた時には客は皆掻っ攫われてしまった後・・・。というのが現実なのだ。 そういう店を多々見てきた美律はその都度胸が痛む。――――店が潰れていくことが・・ではない。 ひとつ店が潰れる度、『シルク』の丈治を通さないからだ・・・、などと囁かれ、実際は何の指示も手も下していない自分の祖父が、どこか神格化され畏怖の対象になっていることが理解できないのだ。
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