1話

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「ドレス着て見せるだけなら、借りればいいだけだから簡単だけど、そういうことじゃないよね。」 「そりゃそうでしょ。お祖母ちゃんとしては、ドレス姿が見たいっていうよりも、幸せそうにしてる知亜希の姿を見たいんだろうし。」 「だよねぇ…。」 同期入社の由香の言葉に、思わずため息が漏れる。 そうなるとやっぱり、相手がいないと無理だ。 会わせてって絶対言われるに決まってるし。 「今から婚活しても、間に合うかどうか…」 「そもそも、そんな短期間で決めることでもないしね。別に本当に結婚しなくても、お祖母ちゃんを安心させてあげたいだけなら、誰か知り合いにお願いしてフリだけしてもらえばいいんじゃない?」 「そんなお願いが出来るような相手すらいないよ…」 彼氏どころか、男友達もいないのに。 「こんな所で仕事に関係ない話が出来る程、君達の部署は暇なのか?」 「…!?」 私達の背後から聞こえた少し低めの男性の声に、思わずビクッとなる。 由香と2人恐る恐る振り返ると、休憩室の入り口に立っていたのは予想外の人物だった。 「井原社長…!」 「休憩も必要だろうが、こういうのはあまり関心しない。」 「すみません、すぐに戻ります!」 由香と2人で慌てて戻ろうとすると、何故か私だけ社長に止められてしまった。 「君に少し話がある。一緒に来なさい。」 「え…」 何で私だけ?! 思わず由香を見ると、心配そうにこちらを見ている。 「30分後には会議がある。それまでに話をしたい。来るのか来ないのかはっきりしなさい。」 来るのか来ないのかって、社長の指示を断れるわけないよね… 「行きます…」 「じゃあ、こっちへ。」 社長の後ろを付いて行くと、応接室へ通された。 こんな部屋で一体何を言われるというんだろう…怖すぎる。 まさか、クビとか…? 「そんなに心配しなくても、君にとって悪い話ではない。」 あまりにも不安そうにしていたらしい。 でも、尚更何の話なのかが分からない。 「君、名前は?」 「瀬川知亜希です…」 「入社して何年目だ?」 「4年目です。」 「4年…失礼だが、君の年齢は?」 「26歳です…」 「26…若すぎるか…?」 この会話は一体何なんだろう? 社長ってクールな感じだから、こんな風に淡々と質問されると、何でもない事でも尋問されてるみたいに感じる… 「…先程、少し会話が聞こえてしまったのだが、君はお祖母さんを安心させるために結婚相手を探しているんだな?」 「え?ええ、まぁ…」 少しっていうか、ガッツリ聞いてるじゃない… まさか、社長がその相手を紹介してくれるとでもいうんだろうか。 意外と社員思いなのか… 「その相手、私ではどうだろう。」 な…って… はい…? 何で社長が私の相手に…?!
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