3866人が本棚に入れています
本棚に追加
「ドレス着て見せるだけなら、借りればいいだけだから簡単だけど、そういうことじゃないよね。」
「そりゃそうでしょ。お祖母ちゃんとしては、ドレス姿が見たいっていうよりも、幸せそうにしてる知亜希の姿を見たいんだろうし。」
「だよねぇ…。」
同期入社の由香の言葉に、思わずため息が漏れる。
そうなるとやっぱり、相手がいないと無理だ。
会わせてって絶対言われるに決まってるし。
「今から婚活しても、間に合うかどうか…」
「そもそも、そんな短期間で決めることでもないしね。別に本当に結婚しなくても、お祖母ちゃんを安心させてあげたいだけなら、誰か知り合いにお願いしてフリだけしてもらえばいいんじゃない?」
「そんなお願いが出来るような相手すらいないよ…」
彼氏どころか、男友達もいないのに。
「こんな所で仕事に関係ない話が出来る程、君達の部署は暇なのか?」
「…!?」
私達の背後から聞こえた少し低めの男性の声に、思わずビクッとなる。
由香と2人恐る恐る振り返ると、休憩室の入り口に立っていたのは予想外の人物だった。
「井原社長…!」
「休憩も必要だろうが、こういうのはあまり関心しない。」
「すみません、すぐに戻ります!」
由香と2人で慌てて戻ろうとすると、何故か私だけ社長に止められてしまった。
「君に少し話がある。一緒に来なさい。」
「え…」
何で私だけ?!
思わず由香を見ると、心配そうにこちらを見ている。
「30分後には会議がある。それまでに話をしたい。来るのか来ないのかはっきりしなさい。」
来るのか来ないのかって、社長の指示を断れるわけないよね…
「行きます…」
「じゃあ、こっちへ。」
社長の後ろを付いて行くと、応接室へ通された。
こんな部屋で一体何を言われるというんだろう…怖すぎる。
まさか、クビとか…?
「そんなに心配しなくても、君にとって悪い話ではない。」
あまりにも不安そうにしていたらしい。
でも、尚更何の話なのかが分からない。
「君、名前は?」
「瀬川知亜希です…」
「入社して何年目だ?」
「4年目です。」
「4年…失礼だが、君の年齢は?」
「26歳です…」
「26…若すぎるか…?」
この会話は一体何なんだろう?
社長ってクールな感じだから、こんな風に淡々と質問されると、何でもない事でも尋問されてるみたいに感じる…
「…先程、少し会話が聞こえてしまったのだが、君はお祖母さんを安心させるために結婚相手を探しているんだな?」
「え?ええ、まぁ…」
少しっていうか、ガッツリ聞いてるじゃない…
まさか、社長がその相手を紹介してくれるとでもいうんだろうか。
意外と社員思いなのか…
「その相手、私ではどうだろう。」
な…って…
はい…?
何で社長が私の相手に…?!
最初のコメントを投稿しよう!