3869人が本棚に入れています
本棚に追加
2話
「あの…おっしゃられている意味が…」
「私と結婚しないかと言ったんだ。」
「でもあの…社長、私の事御存知なかったんじゃ…」
さっき名前聞かれたばっかりだし、認識されてなかったって事だよね?
そんな相手と結婚…?
「ああ、君の事はついさっきまで知らなかった。なるべく社員については把握しようと思っているが、これだけの大人数だと正直中々難しい。だから、この結婚は愛だの恋だのというものとは無関係だ。」
「無関係…」
じゃあ、一体何故?
「言うなれば、これはお互いの利益の為の、結婚という名の契約だ。」
「契約…でも、社長が私と結婚することに何のメリットが?」
「君も知っているとは思うが、前社長…私の父は、まだまだ働ける年齢であったのにも関わらず、去年早期引退をし私に後を継がせた。」
そう、あれには正直驚いた。
だって、まだ60歳になる前で、健康上の問題があるとかでもなかったみたいだし。
「その父親から、お前ももういい年だからと、最近やたら縁談の話が来ているんだ。全く、俺に会社を譲って自分は呑気に隠居生活を送っておいて…」
あ、一人称が俺に変わった。
もしかして、素が出てるのかな?
そういえば、社長って35歳ぐらいだっけ。
「俺は正直結婚する気が無いんだ。君の前で言うのも何だが、女性に対してあまりいい感情を持っていない。」
「はぁ…」
「だがこのままだと、煩わしくて仕方がない。何かいい手は無いものかと考えていた所に、さっき君達の話が聞こえてきたんだ。」
「それで、私と契約結婚ですか?」
「ああ。君なら許容範囲だ。それで条件だが、期間は1年だ。同じ家で暮らす事にはなるが、部屋は別々に用意しお互いの事には一切干渉しない。君が男を作ろうが自由だ。ただ、仕事は辞めてもらうことになる。君も働き辛いだろうしな。その代わり、毎月生活費として今の給料の倍は支給する。離婚後の生活の保障も、慰謝料という形で充分するつもりだ。再就職するというなら、伝手を使って援助しよう。どうだ、悪い条件ではないと思うが。」
「…」
確かに悪くない条件だけど…
本当にこれを受けてしまっていいんだろうか。
さっきまで、誰かにフリをお願いしてでもって思っていたのに、いざ本当にそれをやるとなると、嘘をついてまでやることなのか迷いが出てくる。
「どうした?何か条件に不満があるなら言ってくれ。」
「そういうわけではないのですが…明日まで待っていただいていいでしょうか。少し、考えたくて。」
「構わない。返事が決まったら、ここに連絡してくれ。プライベート用の電話番号だ。」
「分かりました。」
応接室を出てフロアへ戻ると、由香が慌てて駆け寄って来た。
「大丈夫?クビとかになってない?」
「大丈夫だよ。全然仕事とは関係ない話だったから。」
あれ?
契約だから、ある意味仕事かも…?
最初のコメントを投稿しよう!