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パーティーが始まってしばらく経つが、自分の誕生日だというのに何も楽しくはない。
取引先への挨拶回りなんてただの仕事だ。
本当なら今頃、家で彼女と一緒に過ごせたはず。
「はぁ…」
「…社長。さっきから溜め息しか出ていませんよ。」
「仕方がないと思わないか。知亜希と過ごせるはずの時間を邪魔されたんだぞ。」
「…彼女とは契約結婚じゃなかったんですか?」
「今は本気だ。離婚する気は無い。」
「彼女はその事を?」
「…いや、まだ知らない。」
プロポーズからやり直そうと指輪を買ってはいるが…
どんな反応をされるのかと思うと渡せずにいる。
何かきっかけがあればいいんだが…
「ん…?あの女…」
どこかで見覚えが…
「社長?どうかされましたか?」
「あんな女うちの関係先にいたか?」
「女…?いえ、今日の招待客リストにはいなかったと思います。」
「………思い出した。」
1年ぐらい前に、俺が最後に関係していた女だ。
仕事より優先しろだの面倒な事を言う女だったから、数回程度で縁を切ったはず。
そんな女が何故ここに…
「どうかされましたか?」
「あの女…以前俺が関係していた女だ。」
「は…?そのような方が何故ここに?」
「分からない。」
「最近連絡を取られたようなことは?」
「あるわけないだろう。思い出したことすらないんだぞ。」
まさか社内の誰かと通じているのか?
そうじゃなければ、今日の事を知る手段は無いはず。
「どうしますか。」
「何が目的なのか探る。」
「分かりました。」
行動を注意するように見ていると、こっちに気付いた女と目が合ってしまった。
何を勘違いしたのか、意味ありげに微笑んでいる。
…直接確認してみるか。
「結城。一旦離れろ。」
「分かりました。」
結城が離れ俺が1人になったのを確認すると、俺を見つめながら近づいて来る。
普通に話しかけてくるつもりかと思っていたら、目の前で大袈裟に躓いてみせ俺の方に倒れかかって来た。
心の中で今日2度目の舌打ちをする。
周りの目がある以上受け止めざるをえない。
「……大丈夫ですか。」
どうしても冷たい言い方になるのは仕方ないだろう。
すぐに引きはがそうとしたが、女がそのまま体を預けてしな垂れかかってくる。
そして俺にだけ聞こえるように、小声で話しかけてきた。
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