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3話
「は?!社長と結婚!?」
「シーっ!声が大きい!」
「ごめん。でも、契約って…」
「うん…」
会社からの帰り道、社長から持ちかけられた話を由香にすると、目を見開いて驚いている。
そりゃそうだよね。
私も驚いたし。
契約で結婚…ちょっとどうなんだろうと思っちゃう。
結婚自体が契約って言われたら元も子もないんだけど。
やっぱり、ちゃんと好きな人と幸せになるよって姿を見せてあげたい。
でも、時間がない…
お互いに利益がある、か。
いくら条件は良くても、離婚歴が付く事も考えると悩むなぁ。
「そういえば、今日は病院行かないの?」
「え?…しまった。駅まで来ちゃった。ごめん、病院行ってくるね。お疲れ!」
「お疲れ~。気を付けてね。」
由香と別れて急いで病院へ行くと、丁度看護師さんが病室から出てくるところだった。
「あ、瀬川さん。丁度良かった。少しの間お祖母さんに付いててあげてください。」
「何かあったんですか?!」
「痛みが出て、追加で薬を飲んだ所なんです。ご家族の方が一緒だとご本人も安心すると思うので。」
「分かりました。」
中に入ると、辛そうに横になっているお祖母ちゃんの姿が見えて、慌てて傍に駆け寄る。
「お祖母ちゃん大丈夫?」
「ああ、知亜希…お帰り。今薬飲んだ所だから、しばらくしたら治まるよ。」
背中を擦りながら、痛みに苦しむお祖母ちゃんに、それ以外何も出来ない自分が情けなくなってくる。
30分ぐらいすると、だいぶ治まったのか起き上がれるようになった。
「もう大丈夫だよ。心配させてごめんね。」
「お祖母ちゃん…」
「そろそろ帰りなさい。晩ご飯もまだなんでしょう?」
「でも…」
「大丈夫だから帰りなさい。」
「うん…また明日来るね。」
「おやすみ。気を付けて帰るんだよ。」
「うん。おやすみ。」
病院を出て駅まで歩きながら、私は只管考えていた。
お祖母ちゃんの為に、自分が出来ることは何なのか。
「…よし。決めた。」
駅に着く直前、徐にバッグの中を探り、取り出した一枚の紙とスマホ。
「…はい。」
「もしもし。瀬川知亜希です。」
「君か。どうした?」
「先程の返事をさせていただいてもいいでしょうか。」
「構わないが、明日まで考えるんじゃなかったのか?」
「…もう、結論は出たので。」
「そうか。で、どうするんだ?」
「社長が私で良いのなら、します。契約結婚。」
「…そうか。分かった。じゃあ契約書を…」
「その代わり!」
「何だ?」
「結婚式を早急に挙げさせてもらえないでしょうか。」
「早急に?具体的にはいつだ?」
「可能な限り早く、最短で。数日後でも、来週でも構いません。大きなものじゃなくて、家族だけとかそういうのでいいんです。」
お祖母ちゃんには、もう時間がないのかもしれないから…
出来るだけ急ぎたい。
「…分かった。何とか手配してみよう。明日、出社したら社長室まで来なさい。」
「分かりました。」
…言っちゃった。
これでもう、後戻りは出来ない。
でも、お祖母ちゃんの為に自分が出来ることは全部やっておきたい。
例え偽りでも、お祖母ちゃんに心残りがあるよりは、きっといい。
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