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ひめが七歳の時、退魔師として依頼を受けた先で、智恵は妖に負わされた怪我が原因で失血死した。
低級妖だけと聞いて、軽装備で向かったのが仇となった。
低級妖だけなら、善弥や智恵ではなくとも、善弥が教師を務める退魔師の学校の教え子たちでも、充分、祓えるだろう。
それなのに、なぜかその依頼が、一人前の退魔師である智恵にきた。
智恵に依頼がきた時に、善弥自身もおかしいと気づくべきだった。
そうすれば、智恵を一人で現場に向かわせなかっただろう。
依頼を受けて向かった現場にいた妖は低級だった。
けれども、そこに上級妖までがやって来た。
その上級妖というのが、退魔師の間でも噂になっていた幾人もの人間を喰らっていた妖であった。
人を喰らった上級妖は、普通の上級妖より力を持っている。
人の生命力を吸収して、それを自らの糧として力をつける。
そんな上級妖を、並の退魔師が一人で退治出来るわけがなかった。
当然、智恵は応援を呼んで、現場から遁走した。
応援を受けて、現場近くにいた退魔師が駆けつけていたが、それでも上級妖の方が強かった。
退魔師を喰らった妖は、更に力を増して、ますます力をつけた。
普通の人よりも、退魔師の方が生命力が高く、退魔師を喰らった妖を倒すのは、一流の退魔師でなければ困難と言われていた。
善弥は一流の退魔師ではなかったが、それに匹敵する力を持っていると周囲に言われていた。
智恵の応援要請と上級妖の話を聞いた時、たまたま善弥は応援に駆り出されて、遠くに行っていた。
自分の案件を片付けて、慌てて駆けつけた時には、既に上級妖は他の一流退魔師に倒されていた。
現場には、血みどろになった多くの退魔師の死体が並び、遺体の搬出作業が行われていた。
そうして、重傷者が寝かされていた場所の中にーーかつてのバディがいたのだった。
虫の息であった智恵の元に向かい、いくつか言葉を交わした後に、こう言われたのだった。
「善弥。ひめをーー娘を頼むわね……」
それが、柊智恵の最期の言葉となった。
智恵は病院に搬送されたが、治療の甲斐もなく、そのまま息を引き取ったのだった。
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