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ひめとの再会
「そっか……。ひめちゃんは、もう十六歳になったんだ……」
短くなったタバコを携帯用灰皿に入れると、善弥は独り言ちた。
智恵の葬儀の後、善弥は一度もひめに会っていなかった。
ひめに「きらい」と言われたのもショックだったが、それよりもどんな顔をして会えばいいのかわからなかった。
智恵の母親ーーひめの祖母は、善弥が悪くないと言っていたが、善弥自身はそうは思えなかった。
あの日、善弥が智恵が待つ現場に間に合っていれば、智恵を始めとする大勢の退魔師を救えたんじゃないか。
ひめも母親を失わずに済んだのではないかと。
そんな自問自答を繰り返す内に、退魔師であり続ける自信がなくなってきた。
善弥は退魔師を引退すると、教員免許を取得した。
そうして、退魔師を要請する学校の教員となったのだった。
「早いな。時間の流れは」
時間が止まっているのは、あの日、元バディを救えなかった善弥だけで、世間も、人も、何もかもが前に進んでいる。
それなら、善弥もひめに会って前に進むべきなのだろう。
いつまでも、あの日のまま、立ち止まっているわけにはいかないのだからーー。
音を立てて金網から背を離すと、屋上から立ち去る。
階段を降りて、職員室へと向かう途中、向かいから歩いてきた教頭に声を掛けられた。
「夕凪先生、先程お渡しした名簿に変更がありました。机の上に新しい名簿をお渡ししたので、差し替えをお願いします」
そのまま、トイレに入って行った教頭と別れて職員室に入ると、机の上には一枚の用紙が裏返しで置かれていた。
(どこが変わったんだ……?)
用紙を捲って、新しい名簿と古い名簿を見比べていた善弥は、ハッとして目を見開いた。
職員室の入り口を振り返ると、丁度、トイレから戻ってきた教頭が視界に入ったのだった。
「教頭先生!」
ズカズカと歩み寄ってきた善弥に、ハンカチで手を拭きながら入って来た教頭は及び腰になった。
「ど、どうしましたか、夕凪先生。そんな顔をして……」
「名簿から『柊ひめ』の名前が消えています! どういうことですか!?」
机の上に置かれていた新しい名簿からは、「柊ひめ」の名前だけが消えていた。
善弥の剣幕に負けていた教頭だったが、ひめの名前を聞いて「ああ!」と思い出したようだった。
「『柊ひめ』ですが、期日までに必要な書類を用意出来ませんでした。従って、入学を認められませんでした」
「必要な書類?」
「後見人の保護者、または身元引受人による同意書です」
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