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常に危険が伴う退魔師の仕事には、後見人となる保護者か、または身元引受人による同意書が必要であった。
同意書には、万が一、仕事中に怪我を負った際や、死亡した際に、その身元を引き受け、一切の責任を学校に問わないという内容が書かれていた。
毎年、退魔師を目指す学生は多いが、その内の数十人は学生中に死亡や大怪我を負ってしまう。
退魔師になれないまま、この学校を卒業する。
特に、最後の卒業試験の妖退治では、多くの脱落者を出してしまう。
善弥が学校を卒業した年は、智恵を始めとして、学年の半数以下しか残らなかった。
他は大怪我を負って退魔師を諦めたかーー卒業試験で死亡したかであった。
その際にも、同意書によって、学校は一切の責任を負わなかったはずだ。
「『柊ひめ』には、両親はいませんが、祖母がいたはずです。その祖母のサインでは駄目なんですか?」
「その『柊ひめ』の祖母ですが、三年前に亡くなったそうです」
「なんだって……」
「唯一の家族だった祖母を亡くした後、『柊ひめ』は親戚中をたらい回しにされたそうですね。この学校の受験は、親戚にも内緒で受けたそうです」
「と、いうことは……」
「書類の提出期日までに、親戚の誰からも同意書のサインを貰えなかった『柊ひめ』は、入学を認められません。それだけです」
その時、職員室の内線電話が鳴った。
他の教員が電話に出ると、すぐに「教頭先生」と声を掛けてくる。
「一階の事務室から電話です。来年度の入学予定者だった方が、学校の対応に不満があって訴えに来ていると」
「名前は?」
「柊ひめ、と名乗ったそうです」
教頭が静止する声より先に、善弥は職員室を飛び出す。
階段を駆け降りると、事務室へと走る。
事務室の窓口には、一人の少女が叫んでいたところだった。
「納得がいきません! 同意書のサインが無いから入学できないなんて!」
「しかし、そういう決まりなので……」
「退魔師の中には、孤児だっています。その人たちは退魔師になれたのに、わたしは退魔師になれないなんておかしいです!」
「ですが、同意書が無ければ入学は……」
「別に同意書のサインは、保護者じゃなくてもいいんですよね? 要は学生の身に何かあった時に、身元を引き取ってくれるなら、誰でも……。
それなら、この学校の教職員の誰かがサインしてくれればいいんじゃないんですか!?」
「ひめちゃん!」
そのまま、言い争いが続きそうだったので、善弥は声を掛ける。
すると、少女は振り返ると瞬きを繰り返したのだった。
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