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「ですが、既に書類の提出期日は過ぎてしまったので、校長先生に確認を取らないと、なんとも……」
「じゃあ、そっちはよろしく。おいで、ひめちゃん。外まで送ってくよ」
呆気にとられていたひめだったが、善弥が先に歩き出すと、女性職員に頭を下げてから後を追いかけて来た。
職員用玄関で靴に履き替えていると、先に履き替えたひめが、深々と頭を下げてきたのだった。
「あ、ありがとうございました。同意書にサインをしていただいて」
「いいって。智恵……お母さんみたいな退魔師になりたいんでしょ」
「はい。ママと、おじさんみたいな退魔師になりたいので……」
まさか自分の名前が出てくるとは思わず、善弥は顔を逸らすと「そろそろ行くよ」と声を掛けて、先に外に出る。
善弥を追いかけて隣に並んだひめだったが、今度は謝罪の言葉を口にしてきたのだった。
「先程はすみません。顔を叩いてしまって……。でも、ずっと待っていたのは本当なんです。おじさんを嫌いなんて言ってないのも……」
「覚えてないの? お母さんの葬儀の時に、俺にそう言ったでしょう?」
「えっ!? そうだったんですか……。すみません。実はママの葬儀の時の記憶がほとんど残っていなくて……」
ひめの話によると、葬儀の次の日、火葬場に行った時に、高熱を出して倒れてしまったらしい。
それが原因なのか、葬儀の前後の記憶が曖昧で、善弥に言ったことを何も覚えていないそうだ。
それを聞いた時、善弥は脱力したのだった。
「そっか……。気にしてたのは、俺だけだったんだ」
「すみません。おじさんにそんなことを言っていたなんて……」
「いや。いいんだよ。ひめちゃんは何も悪くない」
話している内に、二人は校門に辿り着いた。
校門の側に植えられた桜の木は、まだ蕾であった。
「じゃあ、俺はここで。仕事に戻らないと」
「ありがとうございました。見送りまでしていただいて……」
「いいって。それより、今はどこに住んでいるの? 親戚中をたらい回しにされているって聞いたけど……」
「おばあちゃんの遠縁の家です。でも、学校から遠いので、この近くで一人暮らしをしようかと……」
「一人暮らしのあてはあるの?」
「これから探します。貯金も僅かですが、ママとおばあちゃんが残してくれたので」
善弥は肩を竦めた。
こんな幼気な元バディの娘を一人暮らしさせるのは心配だった。
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