40の女

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 ブランコの鎖を握ったまま俯いてギュッと目を閉じると、ありったけの空気を吸ってから一気に吐き出す。  そっと目を開けると、汚れた小さな白い靴が見えて顔を上げた。  いくつもの緑を重ねたような目の少年と目が合って思わず女は微笑む。  少年は何も言わずに手を伸ばした。  女が右手は鎖を持ったまま左手を差し出すと、少年はそこにそっとゴマ粒程の小さなまん丸の黒い種を置く。 「くれるの?」  女が少年に尋ねると、少年はにこりと笑って去って行った。  少年の姿が見えなくなると、女は立ち上がってそのまま家へと急ぐ。  肩にバッグをかけたまま部屋の中ですっかり枯れた植物の残骸を引き抜くと、外に出て新しい土に入れ替えた。  また部屋に戻ってその種を指先で土に隠すとキッチンのカウンターに置いてその黄色の鉢を見つめる。  不思議とあの絶望感も喪失感も薄まった気がした。  霧吹きで表面を潤わせて鉢にそっと触れる。  だが、土は何も変化はなく芽さえ出て来なかった。 「このコもダメだったのかしら」
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