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「歳だな……」
軽く笑いながらベッドに手を付いてそろそろと歩くと目の前でそのドアがノックされて開いた。
「あ、ご家族の方ですか?」
そうして連れて来られた部屋で先生は意味のわからないことを言う。
検査?入院?
「奥様の着替えとか持って来て頂いてもよろしいですか?」
いくつかの書類を書いて看護師に言われた言葉にとりあえず頷く。
着替え?入院に必要なものって何だ?
ぼんやりしたまま病院を出て歩いていていると、ポツポツと雨粒が当たって道路のアスファルトも色を変えていった。
慌てて傘を差したり、建物に避難する人を見つめる。
冷たい、と思うのに足は動かなかった。
「おじさん!風邪引くよ!」
言いながら走っていく若者を眺めてなぜか笑いが込み上げる。
メガネを外して目を閉じて上を向いた。
顔にパシパシと当たる雨を感じながらそっと目を開くと、重く垂れ込めた雲。そのまま落ちてきて全て飲み込まれそうだ。
不意に手に何かが触れてそっちを見ると、真っ白なシャツに擦り切れた茶色の半ズボンを穿いた少年がこっちを見ていた。
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