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「迷子かな?」
顔を甲で拭ってからメガネを戻して尋ねる。
長いまつ毛に守られるような深い緑の目は穏やかに男を見つめた。
少年は男の手に片手で雨を遮るようにしながら小さな種を乗せる。
焦げ茶色でまん丸の小さな粒。
「くれるのかい?」
男がそれを失くさないように握ると、少年はにこりと笑って去って行った。
男は家に帰って妻がいつも手入れしている庭の花壇にそれを埋める。
不思議と戸惑いも抱えきれなかった不安も和らいだ気がした。
毎日のように男は花壇を眺める。
だが、そこはただ何の変化もない花壇で芽さえも出ていなかった。
「雨で流されてしまったかな?」
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