30の女

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30の女

 雪の舞い散る中、ただ上を向いて目を閉じる。顔や首筋。場所なんて関係なく落ちてくる雪をただ受け止めていた。  明日は30歳の誕生日。  彼氏にディナーの誘いを受けてこれはもうプロポーズだと意気込んで行ったのに、彼の口から出てきた言葉は 「ごめん」  意味がわからなかった。  持っていたワイングラスを口に運ぶことも、テーブルに置くこともできずにただ頭を下げる彼を見つめる。 「どうしても放っておけなくて……」  苦しそうなその声を確かに聞いているのに、その言葉の意味が理解できない。 「僕には君は勿体なさ過ぎる。君ならもっと素敵な人に出会えるはずだ」  なぜこの人は頭を下げていてこっちを見てくれないの?  なぜ、こんなきらびやかな空間で微かに震えながら話をするのだろう?  どうやって店を出たのか、彼と別れたのか思い出せない。  ただ、足を踏み出そうとしたらまともに立つこともできなくてバランスを崩した時にヒールが深く抉れた。  それでも立って歩こうとは思うのに足は動いてくれない。  悔しくて、悲しくて……思いっきり泣き叫んでやりたいのに涙だって出て来ない。
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