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「やめて頂戴ふたりとも。大声で恥ずかしいわね」
声の方へと視線を向ければ、ふたりの後ろの席で予習をしていた黒髪ヘアバンドでこ眼鏡の少女が神経質に手入れの行き届いた柳眉を逆立てんばかりに睨みつけている。
「っせーな、いいだろ休み時間くらい。講義の邪魔してるわけじゃねーんだからよ。お堅いのはでこだけにしてくれよ」
「そーだそーだっ♪」
左右輔が露骨にめんどくさそうに、朔良がさも愉快げに反抗の意を口にすると彼女、一 二三の吊り上がった眉がすうっと真横になった。そしてふたりを見る目は猛烈に据わっていた。
「塾には他校の生徒もいるんだから本当に止めて頂戴。聞けないなら風紀委員と生徒指導部と担任の先生に告げ口して塾のコールセンターに名指しでクレームを入れるわ」
淡々と口にする内容が怖い。
「どんだけだよ!」
「や♪り♪す♪ぎ♪で♪わ♪」
「言っておくけれど、私やるからには徹底的に殺る女よ」
口元を歪め立てた親指で首を掻き切るジェスチャーをした彼女を目の当たりにしてふたりは引きつった笑顔で頷く。
「わ、わかった。オレ達が全面的に悪かった。謹んで謝罪の意を表明させてくれ」
「にゃはーん♪ごめんねっ♪」
稀代の生真面目生徒会役員として先生方の信頼も厚い二三が関係各所に告げ口、というか通報した日には不真面目コンビで通っているふたりの言い分など微塵も聞いて貰えそうにない。そして彼らとて大学進学のためにわざわざ春休みに講習を受けている身だ。素行不良なんて理由でここを叩き出されるのは非常に不味かった。
無条件降伏である。
「よろしい。ああそれから」
ふたりの反省の弁を受け入れたのか平常運行に戻った二三が朔良に向かって言った。
「緑髪は嘘吐きなんてどこでも言わないわよ」
「ほえ?」
朔良が可愛らしく小首を傾げ、左右輔がニヤリと笑う。
「逆峠くんのいつもの嘘よ。いい加減覚えなさい」
ふたりの様子に二三は溜息を吐いた。
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