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「これが私のアカウント」
彼女が指で示したのは、僕もよく使うSNSアプリのホーム画面だった。名前の欄には「kaori」と表示されている。
「綺麗なアイコンだね。花?」
「そう。百合」
「へえ。黄色い百合もあるんだ。白のイメージだった」
「でしょ? これ、私の実家の庭で撮った写真なの」
そう言いながら彼女は画面をスクロールし始め、少し遡ったところで止めた。
「さっき高山くんが来るまではこの子と喋ってたの」
画面を覗くと、夕焼け空のアイコンと黄色い百合が交互にずらっと並んでいた。
「仲良いんだね」
「うん。高校の同級生。私、地方出身だから、大学入ってからは全然会えてないけどね」
「地方出身だったんだ? 知らなかった。どこ?」
「石川」
画面を見たまま僕に返事をする彼女の表情は生き生きとしている。僕ももう一度ちらっと画面を見て、ふと気になったことを訊いてみた。
「それ、会話の途中で放置してて大丈夫?」
「ん? ああ、全然平気。いつもどっちかに用事できたりしたら適当に終わらせちゃってるから。別に大した話じゃないしね」
「そう? なら良いんだけど……」
本当にそのままにしていて良いのだろうか? いくら沢辺さんが見せてきたとはいえ会話を読むのは悪い気がして、内容は出来るだけ見ないようにしていたけれど、相手からの最後の返信が『どうしたら良いと思う?』で終わっているのだけは見えてしまったのだ。
少し言い淀んでいると、沢辺さんが顔を上げた。
「ほんとに大丈夫だよ? これ、あっちの彼氏の話聞かされてただけだから。相談っていうか、共感して一緒に悩んでもらいたいだけだと思うし」
「あ、そうなの?」
「惚気の一種だよ」
苦笑いを浮かべた彼女は、「まあ、あの子が一喜一憂してるところを見るの、楽しくて好きなんだよね」と続けた。
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