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「高山くんって彼女いるの?」
「えっ?」
不意の質問に上手い返しが出来なかった。
「急だね? ……いや、いないけど」
「ふーん……好きな子は? いるの? いるんでしょ」
そう言ってにまっと、玩具相手のような目で此方を見てくる沢辺さんから顔を少しだけ逸らし「いないよ」とだけ答えた。
「ええ、そうなの? 絶対いる反応だと思ったんだけどなあ」
「いるって言ったら絶対色々聞き出そうとするだろ……」
「そりゃね」
ふふっと笑った彼女は、またスマートフォンをこちらに向けた。
「この子も高校の時の友達。あとこっちの子も。……みんな大学に入った途端彼氏出来てさ、最近は恋愛話ばっかり。最初は私の話も聞きたがってきたけど、そんなにネタ無いし。だから私は聞く専門」
当たり前のように「自分は聞く専門だ」だなどと言う彼女に、なんと言っていいのか分からなかった。だって、彼女は間違いなくもてている。その気になればナンパされた話も、告白された話も、いくらでも出来るだろうに。
……いや、あまりにももてるからこそ、話題にしづらいのだろうか。それに彼女は誰にも気がないように見えたし、迷惑だとしか思っていないのかもしれない。
黙ったままでいた僕に、彼女はまた画面を見せてきた。
「彼氏やら好きな人やらの話を一切してこないのはこの子ぐらい。予備校で一緒だった子なんだけど、恋愛に全く興味ないみたい」
「へえ、じゃあ趣味の話とかするの?」
「そう!」
沢辺さんの好きな物を知るチャンスかもしれない、と話題を向けてみると、目をキラキラさせながら頷かれた。
「私も彼女も映画鑑賞が好きでね。でも昔の映画から最新のまで、ジャンルも幅広く観てる子ってあんまりいなくて。偶々好きな監督が一緒だと分かって以来、二人で映画談義するの。ただこの子はちょっと気難しいから、会話の内容考えるの大変なんだあ。でもうまく盛り上がれるとその分すごく嬉しいの」
「映画かあ。良いね。僕はそこまで詳しくないから語れはしないけど、そういえば、あれ見たよ。ほら、最近公開された……」
試しに巷でそこそこ話題になっている作品の名前を挙げてみると、途端に食いついてきた。
「あ、それ! 今週の土曜に観に行く予定なんだよね。面白かった?」
「うん、僕は前作より好きだな」
先週末に映画に誘ってくれた親友に心の中で感謝しながら、持てる知識を総動員させて彼女のトークについていった。
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