1934人が本棚に入れています
本棚に追加
「明日は忙しいからゆっくりしよ?」
「ねぇ!とりあえず下ろして?」
「やだ。」
「正直言って、横向きでも前向きでも後ろ向きでも琥太郎の太腿硬いからお尻痛くなる!」
ちょっとの間の事ならまだしも、この先ずっとこのスタイルはツライ。
琥太郎だって長時間は重いだろうし。
三人掛けのソファーなんだから、普通に並んで座ったら良くない?
「じゃあ下。」
ソファに寄りかかって床に座ると晶を膝の間に入れてしっかりと抱え込む。
「これならいいだろ?」
「いや、普通にソファーに並んで座ろうよ?」
「それじゃ片手が余るだろ?なんか落ち着かないし。」
「両手塞がってる方が不便じゃん!」
大体何でそんなにくっ付きたがるのか謎でしかない。
長い付き合いで嫌と言うほど一緒にいるんだし、今更じゃない?
「今まで我慢してた分がまだ満たされてないんだよ。暫くは付き合ってよ。」
「くっついてたら満たされる訳?」
「多分。」
「じゃあ夏休みの間だけね?今日から10日間もずっと一緒にいれば、さすがに飽きるでしょ。」
確かにそんな長い間2人きりで過ごした事などない。
長い付き合いだけど、初めての経験だ。
「やっぱり、一回くらいはどっか行こう?」
「どこに?」
「遊園地か、動物園か、アウトレットとか?」
「人がいっぱいいる所じゃん。」
「そうだけど。夏休み明けの平日だし、人出は少ないだろ?」
確かにそうかもしれないけど。
今はスマホ一つであっという間に拡散されてしまう世の中だし。
「ずっと家でイチャイチャするのもいいけど、晶の言う通り飽きるよ。さすがに。」
朝も昼もなく好きな時にイチャイチャして、ベッドとソファーだけで過ごすって言うのも悪くはないとは思う。
むしろ俺は全然ウエルカム。
イチャイチャしてシたくなったらシて、って夢みたいな生活を一生のうち一度くらいはしてみたいと思うし。
でも、さすがに10日間は長いし、多分晶が許してくれないだろう。
それに、やっぱりちゃんとデートしたい。
場所はどこだっていいけど、思い出に残るような事をしてあげたい。
多少のリスクは承知の上で。
「泊まりで行く?」
「怪我して休んでるのにそんなに遊び歩いていいの?」
「だってこんな時くらいしか連休なんて取れないよ?そこは割り切って。」
「じゃあどこ行く?」
「そうだな。じゃあ日帰りで千葉。牧場か水族館だったらどっち?」
「勿論牧場。私あそこめちゃくちゃ好き。」
あれだけ渋っていた晶が、ちょっと目を輝かせて乗って来たのは意外だった。
何となく、日帰り出来て、あまり人がいない観光地を思い浮かべただけだったんだけど。
「絶対にファームツアーに参加する。そんでヤギに餌やりする。」
「じゃあそうしよ?牧場行って、アウトレット寄って帰って来るコース。」
「大丈夫かなー?行きたいけど。」
「大丈夫だって。基本家族向けだし。」
「そうかな?いける?」
「行けるよ。帰りに海ほたる寄れば完璧だろ?」
思わず誘いに乗ってしまったが大丈夫なんだろうか。
確かに連休でもない限りはそんなに混雑してないだろうけど。
抗い難い誘惑なんだもん。
あの牛と羊の群れ!
赤ちゃん牛があっという間にミルク飲んじゃうパフォーマンスとか。
あれ何回見ても萌える!
あと、牧羊犬!
あの子たち本気で賢い!
「やばい。」
「え?なに?」
「引っ越し止めて明日行こう!」
考えたら止まらなくなった!
引っ越しなんかいつでも出来る。
それよりも牧場行きたい!!!
「だめ。」
「何で?何でダメ?明日行こうよ!ねぇ!」
琥太郎の腕の中、くるりと振り向いて必死にお願いするも、ダメ!の一点張り。
もう頭の中はもふもふの動物たちでいっぱいなのに何で!?
「お願い!」
「明後日な。」
「引っ越しって言ってもうちにちょっと帰るだけじゃん!いつでもいいでしょ!?」
だって持って来る物なんか大してない。
洋服とか、下着とか、靴とか、基礎化粧品とか?
いや、基礎化粧品はちゃんとしたやつ買おうと思ってるから持って来なくていいや。
「10分で終わるもん!帰りに寄れば?」
「ちょこっとフライングで買ったけど、食器とかさ、ちゃんと揃えたいからダメ。」
食器なんか今あるやつで十分だよ!
そんな大層な料理作る訳じゃないし。
「そう言うのは見つける度に少しずつ揃えた方がいいんだよ。張り切って買いに行ってもどうせ使わないって!」
「お前さー。」
「何?」
「なんか、もうちょっと。」
「もうちょっと、何よ?」
「一緒に住むんだよ?お揃いのマグカップとかさ、そういうのにときめいたりしない訳?」
「分かった!いいこと考えた!」
「何?本当に?」
「うん。明日、牧場行って、アルパカのマグカップお揃いで買おう!」
「却下。」
何でだよ!?
いいじゃん!アルパカ!
第一、今更お揃いのマグカップって。
多分琥太郎のが絶対に乙女。
正直、拘りないなんて口が裂けても言えない雰囲気。
だけど!
行きたいんだよ!どうしても!
ぶっちゃけもう頭に牛の顔しか浮かんで来ない!
あの嘲笑うかのような虚無な瞳しか!
どうしたら折れてくれるだろうか?
やっぱり色仕掛けか?
いや、でもなぁ。
リスク高いよな。色仕掛けは。
第一そんなスキルないもんなぁ。
しつこくお願いするしかないか。
基本的に琥太郎は嫌って言わない性格だし。
煩いくらいしつこくリクエストしたら、そのうち折れてくれるんじゃないかな?
最初のコメントを投稿しよう!