大人の夏休み 牧場編

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「お前、何でこんな時間から起きてるんだよ?」 無意識的に温もりを探して、晶がいる筈の位置に何の感触もないから慌てて起きてみれば。 「あ!琥太郎おはよ!」 いつもなら到底考えられない時間にも関わらず、ばっちり起きてクローゼットを漁る晶がそこにはいた。 「何やってんの?」 「クローゼット片付けてた。」 「何で?まだ7時前だろ?」 「だって目が覚めちゃったんだもん。」 「10時に出るって言わなかったっけ?」 昨日、あれから。 とりあえず重苦しい話題は置いておいて、今日のスケジュールについて話し合った。 晶が参加したいツアーもショーも、1日複数回開催されているし、昼に着けばいいから、と晶も了承した筈だったが。 「違うよ!目が覚めちゃったから!引っ越しするし、クローゼット少し整理しとけば後がスムーズじゃん。」 「ああ、引っ越しの?」 「そう。だってやる事なくて。」 「じゃあ早めに出る?」 「えっ!?いいの?」 「元々お前が朝起きられない前提のスケジュールだからな。」 引っ越しに前向きな晶に琥太郎のテンションも一気に上がる。 「じゃあ魚焼くよ!アジとシャケどっちが良い?卵はどうする?納豆は?」 矢継ぎ早に質問されたのはどう考えても朝食のメニューで。 よくある一般的なラインナップであるが、妙に嬉しい。 休みの日の朝に彼女が朝食を作ってくれるなんて、幸せ以外の何物でもない。 早く出発したくてウズウズしている晶は朝とは思えないくらいにイキイキしている。 「お前かわいいな。」 「話聞いてた?魚と卵はどうする?」 「アジと納豆あるなら卵はいいよ。」 「アジね!了解!」 満面の笑みを残してパタパタとキッチンに向かう背中をゆっくりと追いかけながら、改めて思った。 晶とこうなる以前もそれなりに充実してると思ってたけど。 やっぱり全然違うな。 幸福度が桁違いだ。 「ねぇ!日焼け止めないよね?後でコンビニ寄ってね。今日めちゃくちゃ良い天気だから塗らないとヤバイよ!」 「日傘とかさした方がいいんじゃない?」 「えー!やだよ!手が塞がるじゃん!そうだ、琥太郎のキャップ貸してよ。」 「いいよ。」 「着替えとかいる?汗だくになりそうじゃない?」 「帰りにアウトレット寄るだろ?」 「現地調達か。まぁそれでいいか!」 晶は牧場デートの事で頭がいっぱいの様子で。グリルの魚を見守りつつもあれや、これやとこれからの予定について楽しそうに話している。 ここまで嬉しそうな晶を見るのは久しぶりで。 こんな晶を見れるのなら、もっと早く牧場行きを決めれば良かった。 そんな小さな後悔をしてみたり。 「ご飯さぁ、丼に入れたら掬いやすいよね。さすがに納豆はおにぎりにできないし。」 カウンターに朝食を並べて行く晶は終始ニコニコ顔で、結局朝食を済ませて急かされるように家を出たのはまだ8時前だった。 「コンビニ寄って!日焼け止め買わなきゃ!あと飲み物ね。」 いつもなら警戒して頑なに拒否するくせに、そんな事なんか頭にない様で。 並んでコンビニに入っても、楽しそうにあれやこれやと籠に入れて行く。 「コーヒー飲む?アイス?」 「飲む。アイス。」 「私はカフェラテっと。」 「俺ブラックのままね。先にやってきて。」 会計の終わったコーヒーの容器を渡すと、おっけー!とまぁまぁ大きな声。 こっちを気にしている客もいないし、店員も気が付いてない。 「よし!れっつごー!」 ドリンクホルダーにコーヒーを収めると今日一番の笑顔でそう言った。 「なんだか昔に戻ったみたいだな。」 「え?何が?」 「さっきお前回りの事全然気にしてなかっただろ?ああいうの久しぶりで何かいいなって思った。」 確かに!!! 浮かれていて全く頭になかった! そうだよ。ヤバくない? 「誰か見てた!?」 「いや、全然。」 「本当に?大丈夫?」 「実際そんなもんだって。だから、いつも気にし過ぎって言ってんだろ?」 確かに琥太郎は深くキャップをかぶってサングラスしてるから、パッと見ですぐ気が付く事はないだろうけど。 やっぱり滲み出る芸能人感あるよね。 あと普通にデカイから、例え一般人だとしてもそれだけで目立つし。 「ねぇ!良い事考えた!これからさ、外出た時は違う名前で呼ぶよ!それならさ、あれ?もしかして?って思われても、ああ、名前違うから似てる人か。ってなるじゃん?」 「なるか?」 「なるよ!絶対なる!」 世の中晶みたいな人ばっかりじゃないし、簡単にああ、そうか、なんていかないだろうけど。 まるで世紀の大発見!みたいな顔をしている晶を見たらそんな事は言える筈もなく。 「じゃあ何て呼ぶの?ダーリン?」 「アホじゃないの?そんなの余計に注目を集めるに決まってる。」
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