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「お前は!人の気も知らないで!」
「はい?」
朝とは違って、僅かながらにも人はいたし。
あんなところでキスなんかしたら、絶対に嫌がると思ったから我慢してたのに。
早く家に帰って、存分に彼女を抱き締めたくて帰り道を急いだのに。
そんな必要はまるでなかったなんて。
まだまだ俺も晶の事を分かってないみたいだ。
覆い被さる様に抱き締めて、何度も何度もキスの雨を降らす。
彼女の小さな手が、遠慮がちに背中のシャツを掴むから、抱き締める腕に力が籠もってしまう。
誰かに見られているかもしれない駐車場の暗がりで。
息つく間もなく彼女の唇を貪る事になるなんて、予想もしていなかった。
「早く帰ろ?」
キスだけでは到底我慢出来なくて、慌てて彼女を車に押し込めた。
「帰りに実家に寄ってこうよ。お土産あるし。」
「やだよ。帰る。」
「ついでに荷物も取りに行けるよ?」
「行かない。明日な。」
「寄っちゃえばいいのに。」
こっちの気持ちも知らないで呑気にそんな提案をしてくる辺り、本当に小悪魔だと思う。
あざとく狙ってやってくれた方がまだ対処の方法もあるのに。
気まぐれな彼女の表情ひとつにアッサリと振り回される。
27年間もずっと一緒にいるのに。
まだまだ彼女の沼の深さは計り知れない。
「夕飯どうする?お腹空いてる?」
「空いてない。」
「えっ?昼にホットドック食べたきりなのに?」
「晶は空いてんの?」
「いや、それがさー。空いてないのよ。多分疲れて食欲ないのかもね。お互い。」
真夏の炎天下、確かによく歩いた。
アウトレットで簡単な昼食と、休憩がてらにお茶した時以外はほぼ歩いていたと言っても過言じゃない。
「ちょっと水分不足かもな。」
「あー!あるね。汗めちゃくちゃかいたし。」
仕方ない。作戦変更。
小悪魔を美味しく頂く為にはコンディションを整えておかないと。
夏休みは長いようできっとあっという間だろうし。
寝込まれてしまったら元も子もない。
「ちょっとスーパー寄ってくか。」
「じゃあアイス買お!」
「何でもいいから何か食ってからな。」
「お茶漬けとかで良くない?琥太郎は?」
「何でもいいよ。」
結局スーパーでお茶漬けの素とカットスイカを買って帰宅した。勿論アイスも。
荷物を置いて、晶が米を炊く支度をしている間に、風呂を洗って温めのお湯を張る。
「お風呂入る前に飲んでおいた方がいいよ。」
飲みかけのスポーツドリンクを渡されてそれを飲み切る。
全部飲んで良いって言った?なんて呆れた顔をした彼女を不意打ちで抱き締めた。
「今日はめちゃくちゃ楽しかった。晶は?」
「楽しかった!また行きたい!」
「今度はどこに行こうか?」
「そうだねぇ。」
「次は泊まりで行く?伊豆あたり。」
「温泉か!いいねー!」
「温泉に決まりな。じゃあ風呂行こ。」
なんだかえらい自然な流れでバスルームに連れて来られたが、どう言う事?
一緒に入るなんて一言も言ってないけど?
「ストップ!何してんの?」
「お前がこんな短いスカートなんて履くから、ずっと触りたくて仕方なかったんだよ!」
悪怯れる事もなく堂々と言われても!
右手で腰をガッチリホールドして、首筋に軽いキスを落とす。
スリットから侵入した左手は太ももから腰を艶かしく撫で続ける。
「ちょっと!汗かいてるから!」
「余計に興奮するよな。確かに。」
「おい!変態!」
「やっぱりワンピのルームウェア買えば良かった。」
「ちょっと!変態発言が酷い!」
「下から手を入れるのめちゃくちゃ興奮する。マジでやばい。」
「ねぇ!逮捕されるレベルだから!ほら、もう終わり!」
「えーっ。つまんな!」
「アホか!琥太郎先に入る?後?」
「後でいいよ。ゆっくり入っておいで。」
ちょっとだけ不満そうな顔をしながらも、割とアッサリ引き下がったのをどうして疑わなかったんだろう?
バスルームの扉を閉めながら、後でな、なんて言うから、うん、なんて返事しちゃったのは何で?
後でって言うのは、お風呂を出たら、って意味だったんだよ。私は。
そんな事、わざわざ確認しなくても分かると思うんだよ。普通は。
ああ、でも。
あいつはただの変態野郎だったっけ。
そこを失念してた私が悪かった?
いや、そんな事ある訳ねーだろ!
この!ド変態が!!!
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