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何故晶がこんなにも普通を求めるのか。
それには理由がある。
晶は両親と弟の4人家族。
母は総合病院の救急総合診療科の看護師長
父は海上自衛隊
そして弟は、最近デビューしたアイドル
最近こそ父は船を降りて霞ヶ関勤務になり、ハラハラする事はなくなったが、晶が小さい頃はほとんど家にいなかった。
その職務の特殊性は他にはないものだと思う。
家族でさえも父が今どこで何をしているのか知ることが出来ない。
小学生の時、父は潜水艦に乗っている、という事を理解してからは、日常がハラハラだった。
ただでさえ、世界の有事に真っ先に対面するのが自衛隊で。
陸海空と分かれてはいるが、晶にとってはみんな一緒だった。
訓練中の事故や、有事の派遣、災害救助、殉職者が出る度に父かもしれないと思った。
父は家におらず、居場所も分からない。
違う名前で報道されているが、もしかしてこれは父なんじゃないか、毎回そう思っていた。
母は心配こそすれ、それが父の職務だからと肝を据えていて、自身もバリバリ働いていた。
母も看護師という職業上、残業も夜勤も当たり前で、心細い思いもした。
しかし、それを救ってくれたのが雅だった。
晶の母と雅の母は同郷で同じ学校から一緒に就職して上京した親友同士。
雅の父親は今では都内に美容室3店舗を経営する経営者だが、晶が小さい頃は自分の店を持ったばかりでかなりの多忙を極めていた。
そこで、晶と雅の弟の琥太郎が生まれた時、母達は一緒に子供を育てて行く事を決めた。
隣同士のマンションに引っ越し、お互いのシフトが重ならないようにして、どちからが子供を見られるシステムを作り上げた。
晶が幼い頃はお母さんが2人いると思っていたくらいには。
小学校に上がっても2つの鍵を持ち、今日帰る家を確認してから家を出ていた。
高校生になり、さすがに自分の面倒くらい自分で見られる様になってからは自宅に帰る事の方が多くなったが、今でも両方の家を自宅と言えるくらいには出入りしている。
それは雅も弟達も同じ。
だから4人は幼馴染以上兄弟姉妹以下の非常に近い関係。
晶は雅に懐き、そして雅を崇拝していた。
雅は優秀で、高校から特待生として渡米してしまうと、そのままアメリカの大学を卒業した。しかしそれまでは雅が第三の母として晶と弟達の面倒を見てくれていた。
日本に戻って国立博物館の研究員として働いていたが、アメリカの首都にある世界的に有名な博物館からオファーされ、渡米のタイミングで遠距離恋愛中だったアメリカ人との結婚が決まり、今に至る。
異国の恋人の代わりに雅の結婚の準備に付き合って来た晶は猛烈に結婚を意識し出してしまったと言う訳である。
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