焦るクラゲ王子

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東馬琥太郎(トウマコタロウ)通称トーマ。 デビュー5年目、バリバリの国民的アイドル、ジェリーフィッシュのリーダーであり、雅の弟であり、晶の幼馴染。 晶の弟の遼馬は琥太郎に憧れてアイドルになったと言っても過言ではない。 あれは中3の夏。 文化祭の出し物としてダンス部がダンスを踊る事になり、その練習をしていた時だった。 全員で踊るユニットダンスの他に、ダンス部の選抜でダンスを披露する事になり、選ばれたのが琥太郎と晶、そして三太。 3人は保育園からの幼馴染で、延長保育ついでの保育園主催の体操教室の仲間でもあった。 体操教室を経て、琥太郎と晶は唯一自分達だけで通える習い事であったダンス教室に通っていたが、三太は別の習い事をしていた。 中学に上がって同じダンス部に入部したものの、ダンスを習っている琥太郎と晶のレベルに付いて行くのは至難の技だった。 中学最後の文化祭、なんとか良いものを、と日々練習を重ねていたある日。 男子2人のコンビネーションダンス。 晶はカウントを取りながら三太にダメ出しする。 「裏のリズムでダウン!頭がブレてる!」 それはまるで鬼軍曹さながら。 完璧なシンクロがテーマだから!と周りの目も気にせず大声を張り上げていた。 そこでスカウトされたのが始まりだった。 晶の声に興味を持った事務所の社長は、暫く傍目から2人のコンビネーションダンスを見ていたらしい。 「明日ここに来てよ。もっとダンスがしたくなるから。」 今思えば良くこんな怪しい誘いに乗っかったと思う。 翌日訪れた指定の場所はコンサート会場で。 着くなりフリを覚えさせられ、2時間後にはコンサートステージに立っていた。 晶は初め、スカウトされたのが何故自分ではなく三太だったのか納得行かなかった。 だから翌日も一緒には行かなかった。 しかし帰宅した琥太郎の輝いた目と話を聞いてやっと理解した。 琥太郎と三太はあの、かの有名なアイドル事務所にスカウトされたのだ、と。 女の晶に声がかかる訳がない。 晶には少し苦い思い出だった。 男女関係なく、好きな事を思い切りできていた仲間が急に遠くに離れてしまった出来事だったから。 誰よりも近くにいた琥太郎が、晶の知らない世界へ行き、新しい道を歩み出した。 一緒に踊っていたダンスが、あんなに楽しかったダンスが、踊っても踊っても楽しいとは思えなくなっていた。
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