番外編 くらげ姫の正義感と後悔

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若い2人が何だか良い雰囲気になりかけた時、会場に派手な音楽が鳴り響く。 皆一様に振り向くとそこにいたのは様々なコスチューム姿の余興参加者達。 顔には色々なキャラクターのお面がかけられていて一見誰が誰だか分からない様になっていたが・・・ 「あぁ!危ない!ただでさえフラフラしてるのにお面なんか被ってるから!」 確実な千鳥足に晶だけは顔を見なくても分かってしまう有様。 余興の趣旨は様々な衣装を着てお面を付けた参加者の中から田中さんが奥さんのすずちゃんを当てるというゲームだけれど。 中にはウケ狙いの男子も混じっているけれど、多分半分くらいはただコスプレした女の子が見たかったという余興担当者の考えが見え見え。 「晶さんってこう言う事するキャラじゃないよね・・・」 「東馬さんの事は良く知らないけど、確かにしっかりした女性って感じだよな。」 「月曜日、絶対に誰かこの余興の話するよね?晶さんが自分で立候補してミニスカのコスプレしたなんて知ったら・・・」 「まぁお祝いの場だし、酒の席の事だからな。」 「でも絶対キャラ違うって!酔ったらあんなにハイテンションになるとも思わなかったし!」 「まぁ普段とのギャップがウケてはいるけどな。」 「どうしよう!私の責任だよ!」 「2人で謝ろ?何か手土産でも買って。」 「私晶さんには本当に感謝してるし、何なら今1番信頼してる人なのに。これがキッカケで避けられたりしたらどうしよう。」 「今日の事だって進んで深雪を守ってくれたんだろ?だったらそんな風にはならないよ。そんな人じゃないんだろ?」 「そうだけど!でももし私が酔って記憶がない間にあんなコスプレしてたなんて後で分かったら恥ずかしくて仕事行けないと思う。絶対晶さんも同じだよ。」 今にも泣き出しそうな顔で余興を見守る深雪の事など露知らず、田中さんが無事すずちゃんを一発で当てて、そのコスプレ姿のすずちゃんにデレデレしている傍らで晶も楽しそうに笑っていて。 何なら他の参加者たちと上機嫌でみんなに向けられたスマホにポーズまで付けて答える始末。 恐らく無数に残された証拠写真に晶が月曜日以降頭を抱える姿が目に見える。 「とりあえずもうそろそろさすがにお開きにしなきゃいけない時間だろうし、東馬さんが三次会に行くとか言い出す前にここを出よう。」 たたみ王子の提案に深雪も深く頷いて、晶の荷物を纏めて持つと漸く席に戻って来た晶が椅子に座る前に会場から強制的に連れ出した。 「晶さん、今日は本当にすみませんでした!」 「えぇ?なんで?ぜんぜんおっけーだよ!」 「送りますから住所教えてください。」 「だーかーらー!きょうはここ!おとまりするの!ふかふかのベッドでねるの!」 「分かりました。じゃあそうしましょう。とりあえず部屋を取るんで、フロントまで歩けますか?」 「へや?ダイジョーブだって!こたろーがへやとってるから!」 そう高らかに宣言した晶は上機嫌のままフラフラと歩き出したものの、2、3歩歩いたところでカーペットに足を取られて呆れる程綺麗にすっ転んだ。 「あぁっ!!」 「ヒールあるきにくいなぁ!ぬぐか!」 靴を脱ぎ捨てて裸足で歩き出した晶を2人で慌てて止めて。 たたみ王子は大丈夫だから!と騒ぐ晶をとりあえず背中に背負って歩き出した。 酔っ払いにまともな話は通じないし、裸足で千鳥足で歩いていれば好奇の目に晒される事は間違いない。 最悪はホテル側に宿泊を断られるかもしれない。 「晶さん、旦那さんには連絡入れてください。」 「22じすぎたらでんわかかってくるよ。だからあとでへーき!」 「いや、もう22時過ぎてます!電話が来るって事は、あの、もしかして旦那さん迎えに来るとか?」 「うん!そう!むかえ!」 「えっ!?じゃあすぐに連絡しないと!ちょっとバック開けますよ?スマホだけ、」 そう言ってバックから取り出した晶のスマホにはズラリと不在着信の履歴通知が表示されていて、それをチラッと見てしまった深雪は慌てて晶にスマホを渡した。 「めっちゃちゃくしんあるじゃん。もー!せっかちだなー!」 「旦那さんずっと待ってるんですよ!早く電話してください!」 「もー!あ、かかってきた。はいはーい!」 晶を背負っているたたみ王子には琥太郎の声が丸聞こえ。 どこにいるんだ!?としきりに問いかける声に晶が廊下!ふかふか絨毯の廊下!と全く参考にならない答えを繰り返すのを聞いて、親切心で電話の向こうの声に酔った晶の代わりに答えた。 「4Fの宴会場エントランスにいます。今からロビーに向かいますから。」 あくまで親切心だった。 妻から連絡がない事に相当心配していたんだろうという事はその声色で分かったし。 ただ、たたみ王子は知らなかっただけなのだ。 電話の向こうがあの東馬琥太郎だと言う事を。 電話が繋がった瞬間に部屋を飛び出して既に琥太郎がエレベーターに乗り込んでいる事など知らなくて当たり前なのだ。 親切心で答えてやったのに返事のひとつも返って来ない。 もしかして聞こえていないのかも? たたみ王子がそう思うのも仕方ない。 「聞こえてますか?今からロビーに向かいますから!」 「そこにいろ。動くんじゃねぇぞ。」 あれ?さっきとは別の人? こんなに声低くかったか? ん?動くんじゃねぇぞって言った? なんかやたら怒ってないか? 奥さんに対してそんな乱暴な口調ってどうなんだ? たたみ王子が戸惑っている間に目の前のエレベーターに到着のランプが灯る。 数秒して鳴ったポーンと言う到着音が何故か電話の向こう側からも聞こえて。 それがどう言う事か理解する前に、自動で開くエレベーターのドアをこじ開ける様にかかった手が目に入る。 そしてまだ開ききらないエレベーターの扉から無理矢理飛び出して来た大男に、たたみ王子は目を見開いて固まったまま動けなかった。
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