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寒っ、やばい、トイレ行きたい。
あー、確か酔わないようにチェイサーの水めちゃくちゃ飲んだもんなぁ。
抗えない膀胱の主張に仕方なく目を開ける。
真っ暗な部屋の中、わずかな間接照明に照らし出されたこの部屋に見覚えはない。
ここどこだ?
記憶を辿っても思い当たる節もなく、とりあえずは現実的な問題を解決すべくのっそりとベッドから起き上がった。
多分、ホテル?
いや、絶対ホテル。
あぁ、確かに昨日琥太郎と約束した。
え・・・?
そういえば琥太郎に連絡したっけ?
やばい。思い出せない。
ベッドにはいなかった。確か。
あれ?これはヤバいやつか?
スマホどこだ?
でもとりあえずトイレ!
マジで漏れちゃう。
間接照明を頼りに何とか検討を付けて、バスルームらしき扉を開く。
壁際のスイッチを手探りで探して、パッと付いた照明の明るさに顔を顰めて。
便座の前に立って見下ろした自分の体にビックリして硬直した。
ちょっと待って?
ちょっと待って?
なんか、すごいやつ着てるんだけど!?
どっからどう見てもチャイナ服。
ガッツリミニスカのチャイナ服。
しかも何故かストッキング履いてない。
あれ?これは夢か?
パニックすぎてあたまが働かない。
もしかしてトイレに行く夢?
起きたらお漏らししちゃってるってオチじゃない?
だって私多分酔っ払いだもん。
ペタペタと顔を触って目を擦って、段々と目が覚めて来て。
どうやらこれは現実らしい。
とりあえず山盛りの疑問を抱えたまま用を足して、手を洗いながら鏡を覗き込む。
化粧はヨレていて、顔も浮腫んでいて。
うん。これは現実だ。
とりあえずスマホを確認しなきゃ。
はぁ、と小さなため息を吐いてバスルームを後にして、荷物を探す為にベッドルームの照明をつけようとした時だった。
「ヒィィッ!!!」
さっきまで寝ていたベッドの真横。
ライティングテーブルの椅子に肩肘を付いて、その長い脚を組んで腰掛けて。
琥太郎は黙ってじっとこちらを見ていた。
「ビックリするでしょ!!?起きてたなら声くらいかけてよ!」
飛び上がりそうな程驚いた。
お化けかと思ったじゃないの!!!
バクバクする心臓を押さえながらもう一度目線を上げる。
もう一言くらい文句を言ってやろうと目線を上げて気が付いた。
じっと微動だにせず射抜く様な目線を向けて来る琥太郎と目線が合った瞬間に。
あぁ、やってしまった。
そうだ。デートしようって約束してたんだ。
琥太郎、めちゃくちゃ楽しみにしてた。
やばい。どうしよう。
「琥太郎・・ごめん。」
「それは何について?」
やっと口を開いた琥太郎の声はいつもより低くて、ゴメンの一言では済まされない事だと晶も自覚する。
「約束してたのに、デート。」
「それだけ?」
「え?」
「分かってると思うけど、俺マジで腹立ってるからな?」
「はい。分かります。」
これは土下座が必須な気がして来た。
こんなに怒ってる琥太郎見た事ない。
口数も少ないし、めちゃくちゃ怒ってるって言いながら落ち着いて見えるのが余計に恐ろしい。
「あの、この埋め合わせは必ず!今度の琥太郎のオフの日に私も有休取る!いや、取らせて頂きますので!」
はぁ、と大きくため息を吐く琥太郎に晶はなす術もない。
あの様子じゃきっと一晩中イライラしながら一睡もしてないだろう。
いや、寝不足だから余計イライラするのでは?
遮光カーテンのせいで外の様子は分からないけど、とりあえずまだ朝方の気がする。
昨夜のデートは出来なかったけど、チェックアウトまでちょっと寝て貰ってそれからドライブデートに出かければ計画の半分は達成出来る筈だし!
「琥太郎、寝てないんでしょ?」
「まぁね。」
「チェックアウトまで一旦寝てさ、行けそうなら行こうよ!ドライブデート。もし疲れてるならまた別の日でもいいけど。」
「晶、お前さ、鏡見た?」
「え?あっ!」
すっかり忘れてた。
あぁ、そうか。
それだけ?ってこの服の事か。
「あのさ、本当に申し訳ないんだけどね、覚えてない、です。」
「だろうな。あれだけ酔ってれば。」
「すみません。本当に。もうお酒は暫く控えます。」
「暫く?」
「禁酒します。」
「酒だけ?」
「え?どう言う事?」
あのさ、私が100%悪いのは分かってる。
本当に、マジで私はもうお酒は飲まない方が良いって反省してる。
だけどさ、さっきから奥歯に物が挟まったみたいな言い方ばっかりでさ。
こんな事言える立場じゃないのは分かってるけど。
言いたい事があるならハッキリ言ってくれないかな!
お互い黙ったまま。
琥太郎のじっとりとした視線から目線を逸らす事も出来ず。
琥太郎が何を言いたいのかもイマイチ分からず。
「えぇと、本当にごめんなさい。お酒はもう飲みません。ぐっすりとは行かないとは思うけどせめて少しでも寝てください。あの、私はお酒くさいと思うのでシャワー行って来ます。」
とりあえずちょっとインターバルを置いた方が良さそうだと判断した晶は琥太郎にそう伝えるとガバッと頭を下げて謝罪した後クルリと踵を返した。
長めにシャワーを浴びて、なんなら湯船にお湯を溜めてゆっくり浸かって、暫く大人しくしてたら琥太郎もそのうち眠りにつくかも。
そんな甘い考えはたった3歩で覆された。
音もなく近付いて来た琥太郎に腕を掴まれて、振り返ったと同時に唇を塞がれる。
何が何だか分からないまま壁際に追い詰められて、スリットの隙間から滑り込んで来た指があっという間に下着をズリ下げた。
「んんっ!ん!」
怒ってるのは分かるけど!
こんなやり方は反則じゃない!?
抵抗しようにも琥太郎に力で勝てる筈もないし、口を塞がれていては文句の言い様もない。
漸く離れた唇に晶が口を開きかけた時。
そこには今にも泣き出しそうに顔を歪める琥太郎がいた。
「ごめ・・・」
「マジで無理なんだって。」
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