番外編 くらげ姫の正義感と後悔

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「はぁぁぁ良かったぁぁ!もう嫌いって言っちゃだめだよ?お願いだから!」 「ごめん。」 琥太郎は大きく息を吐くと晶を抱き締めたままドスンとベッドに座って、膝に抱え上げた晶の首筋に顔を埋めた。 本当に焦った。 晶が本気で嫌いになる訳ないって分かってるけど。 面と向かってそうハッキリ言われた時のダメージと言ったら、もう。 暫くそのまま晶を抱き締めて、少し落ち着いたところで漸くその腕を緩めた。 「晶、あのさ、やっぱり帰らない?」 「え?だってさっき連絡したんじゃないの?」 「したけどさ、やっぱ家がいい。」 「いいけど、もったいなく無い?」 「そうだけど。いつもと同じがいい。だめ?」 見下ろされているのに縋る様な目で見るから何だか琥太郎がやたら小さく見えて、晶は思わず吹き出すと琥太郎の頭をわしゃわしゃと雑に撫で上げた。 「じゃあ帰ろうか。」 「あ、風呂入れたから入れば?折角だし。」 「琥太郎も入るの?」 「いや、俺はいい。一緒に入ったらまた暴走しちゃうし。」 「じゃあチャチャって入って来る!」 「ゆっくりでいいよ。ジャグジーあるし、風呂からも景色見れるし。俺フロント行って来るよ。お前の服届いてるかもしれないし。」 「あ、そっか。ごめんね。お願いしていい?」 「いいよ。じゃあ行って来る。誰か来ても応答しちゃダメだからな!?それは守って!」 「分かってるよ。」 この部屋が一体一泊いくらなのか知らないけれど、琥太郎にとっては部屋代よりもいつも通りの日常を過ごす事の方が価値が高いって事なんだろうとその申し出をすんなり受け入れる事にした。 まぁ部屋代を私が払うなら絶対にもう一泊してたと思うけど。 マジックミラーのバスルームは一面が窓になっていて落ちていたテンションも爆上がり。 意気揚々とジャグジーのスイッチを入れて、備え付けのバスジェルを投入したらあっという間に泡風呂が完成した。 これはなかなか。 いや、かなり良い。 開放感もあるし、浴槽は広いし、何よりこの特別感がまた。 春になって琥太郎がツアーでいない時に1人で泊まるのもありだな。 いや、その前に舞台で地方があるじゃん。 また来ちゃお!そうしよ! ホテルに泊まる事を目的にして、エステ行ったりレストラン行ったりして、昼間はふかふかなベッドでゆっくり昼寝。 贅沢だな。贅沢すぎる。 でも心の洗濯ってやつだよね? 人生には必要だよ。そう言う時間も。 泡風呂に浸かりながらそんな計画を立てているうちに、昨日のお酒も気怠さも何となく解消されて、頭の中も大分スッキリして来た。 グッと体を伸ばして、パッと力を抜いて、そんな事を繰り返しているうちに体も軽くなって来て、最後に体についた泡をサッと流すと晶は軽い足取りでバスルームを後にした。 「琥太郎?いる?」 「どうした?」 「ごめん!お待たせ!髪だけ乾かすからちょっと待ってて!」 バスルームの扉を少し開けて様子を伺うと、ソファーに座ってスマホをいじっていた琥太郎がニッコリ笑って立ち上がった。 「髪やってあげる。」 「大丈夫。ザッと乾かしちゃうからちょっとだけ待ってて!」 一応断りはしたけれど、やっぱり琥太郎は晶の髪を乾かす気でいる様で。 ニコニコしながらやって来る琥太郎の為にバスルームの扉は閉めないでおく。 琥太郎は言い出したら聞かないし。 まぁ髪を乾かして貰うのは良くある事だし。 しかし琥太郎はバスルームの扉を開いて晶を見るなりバタンと扉を閉めてしまった。 「えっ?何?」 訳も分からずに晶がバスルームの扉を開けると、何故か琥太郎は扉の外で膝を抱えて小さくなっていた。 「ちょっ!何してんの?」 「やめて!だめ!」 慌ててまた琥太郎が扉を閉めようとするから本当に意味が分からない。 バタンと閉まった扉を押してもビクともしなくて、どうやら琥太郎が外から押さえているみたいだけど。 「ねぇ!何?何で閉めるの?」 「お願いだから早く髪乾かして着替えて来て。頼むから!」 「何?どう言う事?」 「刺激が強いんだよ!」 「はぁ?」 「バスローブとか反則でしょ!?」 「いや反則って。裸じゃあるまいし。」 「だってバスローブ姿なんか初めて見たもん!何か妙にエロいだろ!目に毒だよ。」 「くっだらな。はいはいじゃあもう開けないから向こうで待ってていいよ。」 「あっ!ちょっと待って!写真だけ撮りたい!」 ハッとしてポケットからスマホを取り出して扉に手をかけた瞬間、ガチャンと鍵の閉まる音が響き渡った。 「あっ!ちょっ!晶!」 慌ててそう叫んだけれど晶からの返事はなくて。 代わりに聞こえたのはドライヤーの音だけ。 心の準備もないままに濡れ髪にバスローブ姿なんか見たら、そりゃあ誰だって興奮するに決まってる! でも今は状況が状況だけに手を出す訳には行かなくて涙を飲んで扉を閉めたんだからな! だけど気がつくのが遅かった! うちじゃバスローブなんか着てくれないし、千載一遇のチャンスだったって気がつくのが遅かったんだよ! コレクションに残したかった! チラッとしか見てないから余計に! あー!マジで何してんだよ、俺!
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