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番外編 パパくらげ誕生!?
「今日土曜日だよ?なんでメイクなんかしてんの!?」
「琥太郎支度済んだの?もうすぐお迎え来るんじゃない?」
「ねーぇ!!聞いてない!!どっか行くんでしょ!?誰と!?どこに!?」
「ちょっと出かけるだけだってば!」
「だっておめかししてんじゃん!誰!?」
「アラサーにノーメイクで外出ろって言うの!?」
「マスカラしてるじゃん!」
「いつもしてるわ!マスカラくらい!」
「ねーぇ!言えないの!?俺の知らない人!?」
「うるさい!春子ママとちょっと出かけるだけ!」
「え?なんで?」
大体週末は布団を干したり、冷蔵庫の中を拭きあげたり、朝からバタバタしてるけど昼くらいまでパジャマのままだし。
どこか出かけるって言ったって近所のスーパーとかコンビニに行くくらいなら化粧だってしないのに。
今日は布団を干したら直ぐに着替えてメイクなんかしだすから。
慌てて付き纏って誰と何処に行くのかしつこく聞いたら、予想もしなかった答えが返って来た。
晶にとってうちの親は実の親とそう変わらないし、一緒に出かける事については何の疑問もないけれど。
今の今まで何の話も聞いてなかったし、逆に今更2人で出かける用事って何なんだ?
「晶ママも一緒?」
「お母さんは仕事じゃない?知らないけど。」
「2人だけ?どこ行くの?」
「その辺ブラブラするだけだってば!みーちゃんに荷物送るからそう言うの買うだけ。」
アメリカにいる姉の雅に定期的に荷物を送っているのは勿論知ってる。
アメリカでも買おうと思えば買えなくもないんだろうけど、まぁその辺は親心と言うか。
晶もあれやこれやとちょこちょこ買い込んで、実家の定期便に紛れさせたり、自分で送ったり。
だけど、わざわざ2人で何かを買いに行っていた記憶はない。
まぁ、雅から頼まれた物が母ちゃんには良く分からなかったとかそんなところだろうけど。
「なんだ。変に隠すから何かあんのかと思うじゃん。」
「別に隠してないし。ほら、もう時間じゃないの?早く下行きなよ。」
「何時に帰るの?今日実家帰ったりしないよな?」
「帰る時はちゃんと言う。」
「えっ!?帰んの!?」
「そんなの決めてないってば!」
「やだよ!週末はダメ!」
「琥太郎今日早いの?収録なんじゃないの?」
「押さない様に頑張るから!」
「いや別にいいよ。どうせいつも押すじゃん。」
「今日は押させない!」
「だから気にしなくて良いってば。ほら、電話鳴ってる!早く行きな。」
「見送り来てよ!」
「まだ化粧が途中なんだけど!?」
「じゃあ待ってる。」
「もーっ!」
マネージャーさんからの電話であろう振動音が鳴り止まないのに、そこをテコでも動こうとしない琥太郎に晶の方が痺れを切らして手に持っていたマスカラを無造作にポーチに突っ込んだ。
それでも動こうとしない琥太郎に仕方なくその腕に手をかけて玄関へ連れて行こうとすれば、逆にぐいっと引き寄せられてしまった。
「ちょっと!琥太郎!」
「待って、香水だけ。」
「は?」
「いくら母ちゃんと2人でも用心するに越した事ないから。一応な。」
シュッと首筋に吹きかけられたのは琥太郎の香水で、グイッと更に引き寄せられると琥太郎は晶の頸に吸い付いた。
「ん。俺の匂い。」
「ちょっと!舐めないで!お腹壊すよ!?」
「もうちょっと。」
「ほら!また鳴ってる!マネージャーさんに迷惑かけないで!」
「ちょっとくらい平気だってば。」
「ちょっとでも遅刻は遅刻!社会人でしょ!?怒るよ!?」
「お前ホントに真面目だな。三太なんて大体いつも到着の電話で起きるんだぜ?それに比べたらこれくらい、」
「そんな低いレベルの話してない。琥太郎?いい加減にしなよ?マジで怒るよ?」
声色を変えた晶に琥太郎は反射的にパッと両手を離した。
コレはヤバいやつ。
晶は変なところで真面目だから。
そろそろ言う事を聞かないとマジでヤバい。
「ねぇ!実家帰るなよ?いい?分かった?」
「分かった。分かった。はいはい。行ってらっしゃい。」
「全部一個多い!ちょ!まだ!ちゅうしてよ!」
呆れた様に小さくため息をついて仕方なさそうに背伸びした晶は、ちゅっと軽く唇に触れて直ぐ様踵を返そうとしたのだが。
あっという間に巻き付いた長い腕に引き寄せられてぎゅうと抱き締められてしまっては身動きすら取れない。
「琥太郎!」
「だって俺もデートしたいんだもん。」
「舞台が終わったらね?」
「2か月も先じゃん。まだ始まってもないのに!」
「仕事があるだけありがたい事だよ?デートなんていつでも出来るんだから。」
「舞台終わったら次は年末でまた忙しくなるじゃん!デートしなきゃ俺頑張れない!」
「ふーん?そうなんだ。そっか。じゃあおうちのソファーで膝に乗っかってくっ付いてるのは意味ないのか。そうか。」
「いや!違っ!そんな事ない!嘘!嘘だから!デートは出来なくても何とかなるけど、アレは無くなったらマジで無理だから!」
「そんな早々に撤回するくらいなら下らない事言わない!ほら!走って行きなさい!早く!」
「分かった!分かったから!もーっ!お前、俺の扱い熟知し過ぎ!行ってきます!」
最後にぶちゅっと強引に唇を押し付けると、拗ねた顔のまま漸く琥太郎が家を出て行った。
「はぁ。何なのアイツ。第六感?」
何も言ってなかったから気が付いてはいないんだろうけど。
いつもはこれ程にはしつこく無いし、無意識のところで何か気が付いているのかも。
危ない。気をつけなきゃ。
もうあと数日で小屋入りして来週からは舞台が始まるし、余計な事を言ってこの大きな仕事に影響が出たら困るし。
何より大立ち回りとかアクロバティックな舞台装置とか、とにかく稽古の時点でさえ擦り傷や打ち身が絶えなかったハードな現場だから。
集中力が欠けたら大怪我だってしかねない。
とりあえず今はまだ琥太郎には内緒にして、どこか良いタイミングで話さないといけないけど。
琥太郎は勘が冴えてるところもあるし、何より私より私の事を見てるから。
本当に気をつけないと。
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