1934人が本棚に入れています
本棚に追加
結局澤村くんからは逃げられず。
澤村くん行きつけのダイニングバーへ。
せっかく今日は早く帰れると思ったのに!!
だけど、ふと澤村くんの言葉を思い出す。
マスコミ対策が必要って・・・
思い出したくない記憶が否が応でも蘇る。
あの時も俺は騒ぎになってる事すら知らなくて、現場に突然やって来た澤村くんに事の次第を聞かされた訳で。
いや!いや!いや!
あれから仕事で女の人と関わる時にはやり過ぎなくらい注意してるし!
女の人がいる食事会の類いは尽く逃げ切ってる筈!
あんな事態になるのは二度とごめんだから、もう本当に、本当に気を付けてる。
だから、変な噂すら立つ筈がない!絶対に!
でも、火のないところに煙が立つのがこの業界だから。
一応調べた方がいい?念の為に。
澤村くんを待つ間滅多にしないエゴサーチをしてみたけれど、特にスキャンダルに繋がりそうな話は見つからない。
やり慣れてないから見つけられていない可能性もあるけれど。
必死でスマホと睨めっこしていると、ガラリと個室のドアが開き、そこにはしたり顔の澤村が立っていた。
「とりあえず乾杯だな。」
「え?ちょっ!乾杯の前に説明してくださいよ!一体何が起きてるんですか!?」
お前しつこいね?分かってるんだからな、って。
運ばれて来たビールのジョッキを無理矢理渡されて、訳も分からぬままカチンとジョッキを合わせる。
「隠しても無駄だよ。俺今日見ちゃったから。水天宮で。」
「水天宮?あ!晶ですか?」
「そうだよ!」
「え?で?」
「で?って、お前な!予定日はいつなんだよ。お祝いは勿論してやるつもりだけど、とりあえずは先にマスコミ対策だろ?病院どこ?」
澤村くんが満面の笑みで立て続けに質問して来るけど、一体何の話?
予定日?病院?
「晶ちゃんに話しかけようと思ったんだけどさ、今日土曜の戌の日だったから人が多くて。ちらほら気付く人もいたし、実日子もいたから話しかけられなかったんだよ。」
「実日子さんも一緒に?って言うか、戌の日って何ですか?大安みたいな?」
「え?」
「わざわざ休みの日に舞台の成功祈願に行ってくれたんですか?実日子さんと一緒に。」
「は?」
「えっ?水天宮って確か神社ですよね?あれ?違った?」
「いやいやいや、お前ガチ?」
「ガチって・・」
2人共ビールジョッキを持ちながら神妙な顔をして黙り込んでしまった。
澤村くんが何を言いたいのか分からないし、正直言って話が全然見えて来ないし。
仕方なくジョッキを置くと、ヒントを探すべくスマホを取り出した。
「水天宮・・安産祈願・・・安産祈願!?」
「ちょっと待って?お前知らなかったの?」
「だって!今日は母ちゃんとちょっと出かけるだけだからって!そこに行ってたのだって位置情報見たから知ってただけで!」
そしてふと思い出した。
昼間スクショしたままだった、あの場所。
慌ててカメラロールを開いて地図と照らし合わせて、琥太郎はビシリと固まった。
「レディースクリニック・・・」
「病院?そこで産むの?どこ?銀座?」
「いやいやいや!待って!待って!待って!」
スマホを握り締めたまま澤村に縋る様な目線を向けた琥太郎はどう見てもパニック状態。
いや、だって、そんな話聞いたこともない。
え?いや、普通だったよな?
つわりって言うの?ああいう感じとかあったか?いや、ないよ!全然いつもと同じ。
「お前、まさか聞いてないの?」
「聞いてないですよ!!!そんなの全然聞いてない!!!」
聞いてない。
マジで聞いてない!
普通妊娠したら真っ先に言うよな?
何か言いたそうにしてる素振りだってなかったと思うし。
「あっ!待ってください!これだ!」
「何?」
「ほら!これ!子授けって!これなら分かる!晶はそこまで乗り気じゃなかったけど、俺はそろそろ子供が欲しいって毎晩言ってたし!」
「毎晩って。お前。それただの口実だろ。」
「違っ!違わないけど、でも子供が欲しいのは本当に!」
「でもお前の母ちゃん腹帯買ってたんだよ。流石に妊娠する前から腹帯なんて買わないだろ?」
「腹帯?それ何ですか?帯?」
今の東馬を見る限りでは本当に知らされていなさそうだ。
今日確かに水天宮で見たのは晶ちゃんだったし、安産のお守りと腹帯を買っているところもしっかり見た。
恐らく妊娠には間違いないだろうけれど、それを夫である東馬に知らせないのは何か理由があるのかもしれない。
「帯祝いってのがあるんだよ。妊娠5ヶ月に安産を願って岩田帯、さらしの布みたいなやつを巻いてお祝いすんの。」
「澤村さん詳しいですね。大体水天宮が安産祈願の神社なら澤村さんは何しに行ったんですか?」
「そりゃあ安産祈願に決まってんだろ。」
「誰の?あっ!えっ!?もしかして!?」
「当たり前だろ。今頃気付いたのかよ。」
「おめでとうございます。」
「いや、お前もな?」
「ああ、そうか。いや、そうなのか?本当に?だとしたら普通は俺に一番に知らせませんか?」
もしも晶が本当に妊娠していたとしたら。
そりゃあ嬉しいに決まってる。
だけど何で俺に言わない?
そんな事普通は考えられないだろう?
それにその帯祝いってやつは、安産祈願ってやつは妊娠5ヶ月って言ってた。
よく分からないけど、5ヶ月って言ったらもう傍目にも分かるくらいはお腹も目立つんじゃないのか?
「やっぱり無いですよ。だって昨日も裸の姿を見たけどお腹が膨らんでなんかいなかった。」
「目立たない人もいるらしいよ?便秘かな?くらいにしか見えないとかさ。」
「便秘・・・あっ!!!」
澤村の言葉に琥太郎の心臓は大きく跳ねる。
今にも口から心臓が飛び出してしまいそうな程バクバクと音を立てていて、琥太郎は思わず開いたまま閉じようとしない口を隠す様に手で覆った。
「あいつ、最近便秘が酷いって。お腹が苦しいから嫌だって、最近ずっと逃げられてて。確かに下腹がポッコリしてた・・・」
「おめでとう。パパになる気持ちはどうだ?ん?」
「俺が?パパ?」
最初のコメントを投稿しよう!