1934人が本棚に入れています
本棚に追加
「俺だって初めてなんだから人に何かを言える様な立場じゃねぇよ。」
「そんな事言わないでせめてアドバイスだけでも!」
「アドバイスって言ってもなぁ。」
今から書店に駆け込んでHow to本を買ったって読み込んでる時間なんかないし。
だからって何もしないなんて考えられない。
俺が晶に出来る事は何でもしてあげたいけど、何をしていいのかすら分からない。
「あ!アドバイスってほどじゃないけど。」
「何ですか!?」
「ホルモンバランスってやつ。あれはマジでヤバいから覚悟しといた方がいい。」
「ホルモンバランス?」
「晶ちゃんって生理の時どう?トゲトゲする?あれの何倍もヤバいよ?ジェットコースターみたい。泣いたり怒ったりどこにスイッチがあるかマジで分からん。」
「いや、晶は・・・」
晶はどう考えても生理が重い部類だろうけど、トゲトゲしてるとか八つ当たりされるとかそう言うのは記憶にない。
大体顔色を見て生理が来たのが分かるくらいだし、そう言う変化がなかったら気が付かないかもしれない。
生理前には食欲が増したり体調が悪くなったりするみたいだけどそれにしたって言われなきゃ気が付かないレベルだし。
「トゲトゲはしないですけど口数はめちゃくちゃ減ります。」
「そうか。確かに晶ちゃんって自分で自分の面倒見れそうな感じするもんな。」
「そうなんですよ!だからアイツはワガママも言ってくれないし、全然甘えてもくれなくて!」
「お前の愚痴はどうでもいいんだよ。うちはそろそろ落ち着いて来たけど、妊娠初期はホルモンバランスの関係で感情の起伏が激しくて自分じゃコントロール出来ないらしいからちゃんと気にかけてやれって事!お前の気持ちがどうとかってのは二の次!」
「それは分かってますけど、言われなかったら分かんないじゃないですか。」
「それ、一番ダメらしいよ?指示待ちの父親って。」
「えっ?」
「今そんなんじゃ子供が産まれた後だってさ、あれはどうするの?これはどうするの?って絶対言うだろ。当事者意識がないのが一番ダメらしいよ。手伝ってる!って感じ出すのが。」
澤村の言葉にギクリとしたのは思い当たる節が有りすぎたから。
忙しい中でも出来る範囲で家の事を手伝ってる認識はあったけど。
確かに言われたら手伝うって発想自体がマズイって言うのも頷ける。
2人とも仕事を持っている状況なのに、正直言って無意識のうちに家事の担当は晶って思っていたかもしれない。
「仕事では出来てるんだから本当は家でも出来る筈なんだよ。ただ俺らが甘えてるだけ。」
「なんか、返す言葉もないって言うか。」
「まぁホルモンバランスってやつはどうしようもないけどな。自分だって分からない感情を俺たちが分かる筈ないし。」
「澤村くんはどうやって対応したんですか?」
「まぁ月並みに全肯定しかない。全肯定って言うか、気持ちに寄り添うって言うか。」
「気持ちに寄り添う・・・」
「明らかに何で!?みたいな事言われても、そうか、そうなのか、なら仕方ないな、って。ただしやり過ぎると適当に返事するな!って逆ギレされるから。」
「やばい。俺そっちパターンかも。」
「お前ウザいしな。」
「言い方!」
「だってお前晶ちゃんの事になるとめちゃくちゃウザいもん。」
「普段から面倒くさいって言われまくってるんですけど。俺。」
「だろうな。」
「どうしよう。無意識なんだよな。晶を全肯定するのは全然平気、いや、仕事は辞めて貰いたいしな、そこは肯定出来ないな・・」
「お前はさ、晶ちゃんに甘えすぎ。」
「それ設楽さんにも言われました。」
「手のひらで転がって楽してるくせに甘えてワガママ言ってるんだろ?どうせ。」
「ねぇ!何で分かるんですか!?設楽さんと言い澤村くんと言い!」
「分かるだろ。普通。」
「分かる?分かっちゃう?え?目に余るくらい酷いって事?」
「自覚がないのが怖い。」
「えっ?そんなに?」
「まぁ幼馴染だし晶ちゃんはお前の事一番良く分かってるだろうから今まではそれで良かったんだろうけどな。これからは体も心も大変な時期なんだからお前が気をつけないと。」
「マジでそうですよね!?気をつけないと!」
「帰ったら真っ先に妊娠の事聞くつもりだろうけど、マジで聞き方気をつけろよ?間違っても無理矢理聞き出そうとなんてすんなよ?」
「分かってます!それとなく聞いて、晶が言わないなら明日母ちゃんに聞きます。」
「それがいいよ。最初から躓くと後が大変だから。」
肝心なマスコミ対応の話は事実確認ができてから、と。
その時間の殆どを澤村くんの経験談を聞く時間に費やして、色々アドバイスを貰ったりして。
店を出たのはあと少しで日付の変わる時間帯だった。
今日は仕方ないけど、明日以降はなるべく早く帰って家の事で出来る事は俺がやらなくちゃ。
舞台が始まれば入り時間の前に晶を職場まで送れるし、帰りは迎えに行けないけどダメ出し会議は三角さんと大澤に協力してもらって効率よくやれば21時には劇場を出られるだろうから。
弁当も。あれには随分助けられて来たけど、悪阻が始まれば料理は辛いだろうし、弁当がなきゃ早起きする必要もないし。
そうか!朝飯は俺が作ればいいや!
晶ほど上手くも効率よくも出来ないけど、それほど凝った物を食べてる訳じゃないし。
朝飯なら俺にも出来る。
地方公演はどうするかな。
新大阪の最終が21:30だから大阪はいけるな。
福岡は飛行機の最終が21:20か。
これならワンチャン毎日帰れなくないな。
ただ晶が怒りそうだから毎日は無理か。
休演日の前日と、昼公演がない日の前日と、夜公演のない日なら納得してくれる?
後は何かあるか?
買い物は主にネットスーパーだし、洗濯は風呂上がりに回せば良くて、風呂掃除も風呂出る時に一緒にやればいいか。
ああ!そうだ!一番大切な事忘れてた!
検診は絶対一緒に行きたいから、次の検診日のスケジュールを確認しないと!
病院にもよるだろうけど予約時間ピッタリには呼ばれないって澤村くんも言ってたし。
時間に余裕を持ってスケジュールをやりくりして貰わなくちゃ。
そうなるとメンバーには伝えないとな。
普通は安定期に入ってから伝えるものみたいだけど、スケジュール調整が必要だからある程度協力もして貰わないといけないし。
あとは、
「お客さん!着きましたよ!お客さん!」
最初のコメントを投稿しよう!