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妊娠4ヶ月から10ヶ月まで。7人の読者モデルさんたちのリアルな記録が載っていたり。
妊娠中や出産のトラブル事例が書かれていたり。
ちょっと中身を見てみるだけの筈だったのに、いつの間にか食い入る様に体験談を読み込んでいた。
"ドラマの様に突然の吐き気から始まり、赤ちゃんを産み落とすその瞬間まで悪阻に苦しみました。"
そんな体験談には眉間に皺を寄せて。
もし晶が同じパターンだったらどうしよう?と。
最長8ヶ月も毎日吐き気や倦怠感と闘うって、並大抵の事じゃない。
いくら妊娠は病気じゃないと言っても、具合が悪い事に変わりは無いし。
生理の度に顔色の悪い晶を見るだけで辛いって言うのに。
晶は痛い痛い騒ぐ訳でもないし、イライラして八つ当たりする訳でもない。
鎮痛剤が効いて動ける間に黙って家事だってこなしてしまうし、一見普通通りに見えるけど。
ぎゅっと目を瞑って前屈みになってお腹を押さえている姿なんかを偶然見つけてしまった時には、こっちの方が具合悪くなりそうなくらいにハラハラして心配で心配で晶から目が離せない。
たかが1週間くらいの生理だって心配し過ぎて若干疲れるくらいなのに。
もし晶が悪阻の酷い体質だったとしたら?
それに、全く知らなかった。
妊娠が引き起こす病が、死に繋がる重大な症状を起こす可能性がある事。
やっぱり妊娠や出産は命懸けの大仕事なんだと改めて気付かされる。
実際にお腹に赤ん坊を宿す母親は死に繋がるかもしれないリスクを常に背負って妊娠、出産に望まなくちゃいけないのに、結局妊娠、出産に於いて、父親が出来る事なんかひとつもなくて。
赤ん坊が生まれるまでは黙って見守る事しか出来ない。
小さなリスクひとつすら負う事が出来ない。
昨日までの俺は「早く子供が欲しい!」なんて簡単に口走っていたけれど。
それがいかに安直な考えであったかを気付かされた。
それでも、"月例別の赤ちゃんとの1日"なんて言う記事はやっぱり見ているだけでワクワクして来るし。
ミルクを飲ませて、ゲップをさせて。
抱っこでウロウロ歩き回りながら寝かしつける自分の姿を想像しては口元を緩める。
赤ちゃんの背中にスイッチが付いていて、やっとの思いで寝かしつけて布団に寝かせた瞬間目が開く、なんてあるあるの話には。
体幹には自信があるし、案外俺なら上手くやれる気がする!なんて妙な自信が芽生えたり。
体力には自信があるから、何なら一晩中でも抱っこして居られるし!なんて。
妊娠、出産に関しては直接出来る事は少ないけれど、育児に関してなら俺にだって!と、あれやこれやと妄想は膨らむばかり。
ついには広告に出ていたフランス製のベビーベッドとか、乳歯のコレクションボックスとか、ベビーカーやチャイルドシートまで。
雑誌を広げながらスマホ片手に調べまくって。
購入寸前まで行きかけた。
さすがに俺の一存で決めたらダメか。
一つしか要らないものは晶にも意見を聞いた方がいいよな?
沢山あっても困らない物ならいいか。
おもちゃとか洋服とか。
気が早いって怒られるかな?
でもちょっと見るだけなら。
想像する我が子は当然女の子。
"ベビー服""女の子""かわいい"と検索ワードを打ち込んで。
今まで縁も所縁もなかったその小さな洋服を次から次に表示させて。
月例に合わせたサイズなんて勿論分からないから、とにかく気に入った物を次から次にカートに入れて行く。
赤ちゃん用のビキニとか、サングラスとか、カチューシャとか。
洋服以外にも我が子に身に付けさせたい物は山ほどあって、どれくらいの時間が経っているのかなど全く気にしていなかった。
ガチャリ、というドアの開く音。
夢中で画面に見入っていたからその音を認識するのに時間がかかる。
一瞬遅れてハッと気が付き振り向いて見れば。
濡れ髪のまま顔を顰めてこちらを見下ろす晶が立っていた。
「あ・・・」
咄嗟の事で上手く言葉が出てこない。
慌ててスマホをポケットにしまって立ち上がると、晶の視線が床に降りた。
「ごめん!あの、」
「ちゃんと片付けといて。」
「あ、うん!いや、片付けるけど、そうじゃなくてさ、」
「片付けたらお風呂入っちゃって。洗濯もお願い。私もう寝るから。」
「え?ちょっ!あの、話が!」
「ごめん、ちょっと今日は。」
「えっ?もしかして具合悪い?」
「大した事ないから大丈夫。病気とかそう言うのじゃないから。じゃあ悪いけど宜しく。」
そう言って小さなため息だけを残して部屋を出て行く晶を慌てて追いかける。
もしかして、悪阻が始まったのかもしれない。
病気じゃないけど具合が悪いって、それしか考えられない。
今日は一日中外出していたし、体に負担がかかり過ぎたんじゃないか?
こうなったらちゃんと話はしなくちゃいけないけど、とにかく先に晶を横にならせて休ませなくちゃいけない。
「しんどい?歩ける?」
「だから大した事ないから。琥太郎は先にお風呂入っちゃって。」
「あっ!ごめん!もしかして、俺臭い?」
「え?」
「俺の匂いがダメ?」
「何言ってんの?嫌味でお風呂行けなんて言ってる訳ないでしょ?もういいから早くやる事済ませなよ。」
「えっ?平気なの?俺の匂い。」
「何?焼肉でも食べたの?何でもいいから早く行って。」
「じゃあ一緒に寝ても平気そう?」
「は?お風呂入らないならせめて着替えて。外歩いて来た服で布団に上がらないで。」
「風呂は入るけど!」
「ごめん。本当に私寝るから。」
気怠そうにそう言った晶はやっぱり見るからに具合が悪そうで。
まだ濡れた髪のままだと言うのに本当に布団に潜り込んだ。
「髪乾かさないと風邪ひいちゃう。」
「大丈夫だよ。」
「ドライヤー持って来てここでやってあげるから。それもしんどい?」
「ちょっとお腹が張って痛くて横になりたいの。」
「えっ!?」
お腹の張りって良くないんだよな?
切迫流産?切迫早産?どっちか分からないけどとにかく受診しなきゃいけないやつだよな!?
「病院行こ?な?」
「は?」
「お腹張って痛みがあるって言っただろ?それ、絶対に診てもらった方がいい!」
「だから病気じゃないんだってば。」
「病気じゃないのは分かったけどその症状はヤバいだろ!?」
「大丈夫。想定の範囲だから。」
「何かあってからじゃ遅いだろ?診て貰って大丈夫ならそれでいいんだから!」
「心配しないで。大丈夫だから。今は私の事より自分の事優先にして。明後日小屋入りでしょ?明日も早いだろうし、とりあえず、」
「お前の体の方が大事に決まってんだろ!?」
「じゃあ悪いけど。そう思ってくれてるなら寝かせて。」
「晶・・マジで、お願いだから病院行こ?頼むから!病院、昼間のとこだろ?あの銀座の。」
「え?あぁ、見てたの?」
「見たよ!全部知ってる!水天宮行ってたのも、レディースクリニック行ってたのも!だから隠さないで言ってよ!俺はそんなに頼りない?」
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