番外編 パパくらげ誕生!?

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確かに言われてみれば。 外出するのを知っていて琥太郎が位置情報を確認しない訳がない。 目の前に広がる光景に、琥太郎が何を言いたいのかは明らかだけど。 この話はどう考えてもサクッと終わる筈はないし、今はすこぶる具合が悪い。 「頼りないとかそう言うのじゃないから。」 「だったら!」 「5分で終わる話ならいいけど長くなるのは目に見えてるからさ、悪いけど今日は寝かせて。」 「詳しい話は体調が良い時でいいから!とにかく病院行こ?な?」 「病院行ってどうなる問題でもないんだってば。」 「いや、だって、入院とか、」 「あのクリニック入院設備ないし。夜間救急とかないから行っても無駄なのよ。」 「えっ!?そんな病院行ってんの!?ダメじゃん!母ちゃんも一緒に行ったんだろ?何でそんな所!」 「ごめん。琥太郎。もう限界。明日ちゃんと話すから。」 腰に手を当てて体を前屈みにした晶に慌てて駆け寄る。 眉間に寄せた皺も浅い呼吸も具合の悪さを物語っていて、琥太郎は咄嗟に晶を抱き上げた。 「あっ!ごめん!」 何も考えずにいつも通りに担ぎ上げて、ハッとして慌てて晶を横抱きに。 いつものやり方じゃどう考えてもお腹が圧迫されてしまう。 「救急車呼ぼ?な?」 「何言ってんの!?止めてください。本当に大丈夫だから!」 「だって!」 「琥太郎!お願いだから。」 「晶・・・」 その顔を見たら。 もうこれ以上異論を唱えても無駄だと分かってしまった。 心配だし、どう考えたって病院に行った方が良いって思うけれど。 仕方なく晶を寝室に運んで、そっとベッドに下ろしてやる。 ありがとう、小さな声が聞こえたが、晶は眉間に皺を寄せたままぎゅっと目を閉じている。 本当は風呂に入って明日の仕事に備えて眠るべきなのは分かっている。 しかし今は怖くて晶から目が離せなかった。 ベッドサイドに座り込んで布団の上から晶の体をさすりつづけて。 苦悶に歪む晶の顔をじっと見つめる。 晶は大丈夫だと言ったけど、もしこれ以上具合が悪くなる様な事があれば黙って救急車を呼ぶつもりで。 勿論これから先何ヶ月も毎晩晶の様子を窺う為に徹夜するなんて無理な話だし、そんな事は出来っこない。 だけど今は、怖くて、恐ろしくて晶から目が離せなかった。 もし晶に何かあったら。 もしお腹の赤ちゃんに何かあったら。 危険の兆候を俺が見逃してしまったら。 今の晶の状態をスマホで調べようかとも考えた。 だけど、出来なかった。 スマホに目を向けている間に何かあったら、そう考えたら、1秒さえ晶から目が離せない。 晶の瞼がピクリと動く。 そんな僅かな変化だけで全身にぎゅっと力が入って背中にヒヤリと冷たいものが流れた。 「琥太郎。」 「晶!?」 ゆっくりと肘を付いて上体を起こした晶が眉間の皺を残したまま、じっとこちらを見ていた。 「紛らわしい事してる自覚はある。それについてはごめん。」 「え?どう言う・・・」 「してない。誤解だから。」 「え?」 「だから、私は妊娠してない。」 「えっ!?えっ?えぇっ!?じゃあ何で、」 「だからさ、それを全部話す元気がないの。明日ちゃんと話すからさ。」 あんぐり口を開けたまま固まる琥太郎の顔を見たら流石に申し訳ない気持ちになったけど。 だけど、本当に具合が悪いんだよ。 琥太郎に黙ってコソコソしてたのにはそれなりの理由もあって、それを全部話したらきっと琥太郎はああだこうだと言うだろうし。 それを宥めるところまでがセットと考えたら、とてもじゃないけど今日のコンディションじゃ対応できない。 「でも・・だって・・お腹張って痛いって!」 「注射打ったから。」 「注射?」 「ホルモン剤。」 「ホルモン剤?」 「注射で無理矢理排卵させようとしてるから副反応が凄い。卵巣が薬に反応しててめちゃくちゃ痛い、そして怠い。」 「何でそんな!」 「だって琥太郎赤ちゃん欲しいんでしょ?」
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