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仕方なく言われた通りに部屋を出て、モヤモヤしたままシャワーの下に立つ。
晶をアメリカになんか行かせないって母ちゃんにもちゃんと言わないと。
あの人は今までだって1人で雅の所に行ってるんだし晶がいなくたって問題なんかないし。
何なら親父と2人で行けば良いんだ。
2人ともいつも仕事優先で忙しくしてて、夫婦揃って旅行に行ったなんて何年も前だろうし。
そうだ。それがいい。
俺からのプレゼントって事にして航空券を押し付けてしまえばいい。
名案を思い付いて漸く少し落ち着いて、ザブンと湯船に浸かって脱力する。
今日は疲れた。
本当に色々と。
ぼんやりしていると、さっき必死で雑誌から仕入れた知識が頭に浮かんで来て、何だかやたらと切なくなった。
パパになる気満々だったんだよなぁ。
晶の事はめちゃくちゃ心配だけど、我が子が生まれるって物凄くワクワクしてたと思う。
産まれてもいないのにこの服着せたいとか、あそこに連れて行きたいとか、かなり具体的に考えちゃってたし。
何ならランドセルを背負った姿すら想像してたし。
めちゃくちゃ短い間だったけど、俺完全にパパになってた。
すげー幸せだったかもしれない。
いや、幸せだった。
感傷に浸りながら気が付けばお湯が温くなるほど長風呂していて、晶はもうきっと眠っているだろうとそっと寝室を覗き込む。
真っ暗な部屋の中、晶が寝返りを打つ衣擦れの音にそっとベッドへ近付いた。
「眠れないの?からだ、しんどい?」
小さな声で問い掛けてみれば、大丈夫、と掠れた声が返って来た。
ベッドに潜り込んでゆっくり慎重に晶を抱き寄せる。
背後から包み込む様に抱き締めてお腹を撫でれば、そんな事はない筈なのにお腹が若干膨らんでる様な気がして、思わず漏らしそうになったため息を慌てて噛み殺した。
「琥太郎気にしないで寝ていいよ。明日小屋入りでしょ?ちゃんと寝ないと。」
「俺は体力あるから平気。あんまりシンドイならどっか診てくれる病院探す?」
「大丈夫。卵巣が刺激されて痛みが出るかもって言われてたし、多少腫れる事もあるみたいだから。」
「でも眠れないくらい痛いんだろ?」
「激痛って訳じゃないんだけどね。何だか嫌な痛みなの。お腹も張ってパンパンで苦しいし。」
「摩っててやるから眠れるなら寝ろよ。」
「ありがと。でも大丈夫。琥太郎は気にしないで寝て。」
「良く分からないけど子供作るために必要な処置したからそうなってんだろ?晶だけに辛い思いさせるとかヤダよ。仲間外れにすんなよ。」
「でも明日も仕事が、」
「お前より大事な仕事なんてねぇよ。いいから気にしないで寝ろ。この体勢辛くない?」
「大丈夫。ありがと。それと、ごめんね。」
「俺が早とちりしただけ。」
「でもさ、」
「あのさ、俺、やっぱりマジで子供欲しい。だからちょっと真剣に考えたい。いい?ダメ?」
「ダメな訳ないじゃん。だから今日も注射打って来たんだし。生理が来たら血液検査に行って色々調べてもらうつもりだよ。」
「俺も一緒に行く。」
「気持ちだけ貰っとく。騒ぎになるし。ちゃんと結果は知らせるから。」
「でもさ、晶にだけ負担かけるのヤダもん。」
「もし妊娠して出産って事になったらもっと色々大変になるし、皆んなにも迷惑かけると思うしさ。だからそれまではさ、なるべく迷惑かけない様にしようよ。ね?」
「分かったけど、でも周りに迷惑かけないで俺が出来る事はさせて。それならいいだろ?」
「分かった。」
結局のところ琥太郎は言い出したら聞かないし、言う通りにするのが一番だから仕方がない。
明日だって朝から仕事だろうけど、ああだこうだ言い合いを続けたらいつまで経っても寝るどころじゃないだろうし。
それに何より今日はそんな気力もないから。
「寝れそう?」
「うん。」
「もし辛かったら俺が寝てても起こせよ?」
「大丈夫だから。それよりさ、やっぱりいつもの格好の方が落ち着きそうなんだけど。」
「じゃあおいで。お腹苦しくない?大丈夫?」
「平気。琥太郎の匂い落ち着く。」
「ねぇ!あんまり可愛い事言わないで!俺がその気になったらどうすんの!?」
ただでさえ父性が目覚めてしまって庇護欲が増してるって言うのに、胸元に鼻先を擦り付けてスリスリと擦り寄って来られたりしたら手を出したくて堪らなくなるじゃないか!
父性に目覚めたくらげ王子が本当のパパになるのはいつの事か。。。
それはまた別のお話で。
パパくらげ誕生!? 終
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