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そして出発の朝。
「朝ごはんに駅弁食べたかった。」
「さすがに朝早いしねぇ。まさか始発の新幹線に乗るとは思ってなかったわ。」
「せっかく行くのにもったいないじゃん。私大阪って何気に初めて行くんだ!めちゃくちゃ楽しみ!」
「初めてなんだ?私は仕事で何回か行ったけど。でも仕事しかしてないからなぁ。晶と同じ様なもんか?」
「とりあえずどこから攻めるか決めようよ!」
始発ののぞみに乗っていざ大阪へ!
琥太郎たちは昼からの公演だからどうせまだ起きてないだろうし、大阪に着いたらメッセージを入れておけばいい。
新幹線の中で2人顔を突き合わせてガイド本に齧り付いて。
どこに行くか、何を食べるかで大盛り上がり。
なるべく色々なところに行きたいから、一番効率の良いルートをああだこうだと割り出して。
大阪までの2時間と少しはあっという間に過ぎて行った。
「うわ、通勤ラッシュ真っ只中!」
「そりゃそうだ。だって平日だもん。」
「噂には聞いてたけど本当にエスカレーター逆なんだね!」
「右側に並ぶのなんか変な感じするよね。」
「大阪に来た!って感じする!めっちゃする!」
到着したのは8時過ぎ。
観光地はまだどこも開いていない。
2人はとりあえず荷物をホテルに預けると、目星をつけていたパン屋でパンを買って大阪城へ向かった。
「さすが豊臣。大阪城広い!」
「適当に歩いて良さげなとこでごはん食べよ?お腹空いちゃった。」
2人が朝活を気取ってのんびり大阪城公園を歩いていた時だった。
「晶、携帯鳴ってない?」
「え?あぁ本当だ。」
「早速筋肉?」
「予想してたより起きるの早かったな。ごめん、ちょっといい?出ないと面倒だから。」
着信の相手は勿論琥太郎。
いつもなら昼公演の時間に合わせてもっと遅い時間に起きるのだが、何故か今日はやたらと早く目が覚めてしまったのだ。
正直ここ数日は眠りが浅くて、体のコンディションもいまいち。
二度寝しようにも目が冴えてしまって、それならばと早朝からランニングに出かけて、まだ人もまばらなホテルの大浴場でゆっくりと汗を流した。
部屋に戻ると時刻は8時過ぎ。
ちょうど晶の通勤時間帯だから、タイミングが良ければ電話できるかもしれないと位置情報アプリを開いた。
「は?えっ?何コレ?バグった?」
晶の居場所を示すアイコンは何故か自分のアイコンの直ぐそばに。
いや、そんな事ある訳ない。
一度アプリを落として再度立ち上げても変わらないその表示。
まさか晶が大阪にいるなどとは露ほどにも思わない琥太郎はスマホ自体の電源を切って再起動させた。
晶のアイコンはさっきとは別のところを示しているものの、大阪市内にいる事は変わりない。
アプリの不具合情報がネットに上がっていないか、バグが起きた時の修正方法はないか、アプリの画面をチェックしながらも焦って解決策を探す。
このままでは晶に何かあった時に困る。
ネットに載っている情報を片っ端から試しても晶のアイコンは相変わらず市内にあって、いつもなら役所に着いている時間なのに晶のアイコンはずっと動いているし、何ならさっき行った道をまた高速で戻っている。
焦ってアプリを消したり立ち上げたりを繰り返していると、ふと気がついた。
「そうだ!颯太も確か!」
この位置情報アプリを颯太に教えたのは自分だ。
一番誤差が少ないアプリだから、と。
とりあえず颯太のアプリを見れば、これがアプリ全体のバグなのか、それとも自分のスマホの問題なのかは区別が付く。
恐らくまだ寝ていた颯太は容赦ないピンポン攻撃に寝癖を付けたまま仕方なくドアを開けた。
そしてまだ働かない頭のまま、言われるがままにアプリを開く。
「あ、同じだ。ひかりも大阪にいる。」
「やっぱりアプリの方か。」
「いや、大阪にいるんじゃない?2人とも。」
「は?今日はまだ金曜日だぞ?来るのは明日!」
「でもさ、ほら見ろよ。ひかりと晶ちゃんの位置情報一緒の場所だよ?動きも一緒。」
颯太に言われて2つのスマホを並べると、確かにピタリと同じ場所にアイコンがある事に気が付いた。
「え?マジ?」
「えっと、ここは、大阪城?」
「こんな時間に2人で大阪城にいるか!?」
「分かんないよ。でも確かに昨夜は明日が早いからって理由で電話しなかったんだよ。もしかしたら早くに東京を出たのかも。」
「晶は何も言ってなかった。いや、違う!言ってた!明日早いって言ってたかも!」
「電話してみる?」
「俺がする!」
え?もしかしてサプライズってやつ?
俺が毎日毎日早く会いたいって言ったから?
マジで!?だとしたらすげー嬉しいんだけど!?
「もしもし?」
「晶!?もしかしてサプライズ!?」
「はぁ?何の話?」
「だって今大阪にいるだろ!?1日早く会いに来たんだろ!?」
「あぁ、そう言う意味か。」
「大阪にいるんだろ!?」
「うん。今ね、大阪城。散歩しながら朝ごはん食べる場所探してるとこ。琥太郎随分早起きじゃない?」
「眠れないの!もう限界だって言ってんだろ!?」
「えぇ?二度寝したらいいじゃん。まだ時間あるんでしょ?」
「とりあえずそこ動かないで!今から行く!」
「ちょ!待て!待って!」
琥太郎がとんでもない事を言い出した。
今から来るって??
いやいや今日だって普通に昼夜二公演あるし!
迎えに来いなんて頼んでないし!
何ならスケジュールはキッチリ決まってるし!
「明日だよ?舞台は明日!今日はひかりと観光だから!」
「だから何?」
「はぁ?だから何って、琥太郎こそ何しに来るのよ。」
「とりあえず触りたい!」
「会話だけ聞いたら間違いなく犯罪者だからね?」
「そんな事どうでもいい!」
「良くねーわ!」
「何で!?同じ大阪市内にいるのに!」
「何でって、琥太郎仕事でしょ?今日はひかりと観光して一泊して明日はそっちのホテルに移るからさ。」
「何で!?」
「何で?何が何で?」
「何で大阪にいるのに会えないんだよ!」
「はい?だからそっちは仕事でしょ?私たちは観光するつもりで1日早く来たの。予定通り明日はそっちに行くし、連絡しなかったのはまだ起きてないと思ってたから、」
「観光はわかった。でもとりあえず先に会いたい!」
「分かった。じゃあ後で、」
「今!」
やっぱりダメだったか。
事前に前泊を知らせなかったのはこうやって琥太郎が駄々を捏ねると思ったから。
当日なら琥太郎だって舞台の時間もあるし諦めると期待しての事だったけど、こんなに早く起きるのは計算外だった。
元はと言えば私が失踪まがいの事をしたのがいけないんだろうし、琥太郎はそれがトラウマみたいになってるんだろうけど。
あくまで琥太郎は仕事でここに滞在してるんだし、ホテルにいる時間だって仕事の延長線上の事と言えなくはないと思う。
琥太郎たちの仕事はアイドルで、いくら結婚したからと言っても大っぴらに2人でいる訳にも行かないし、仕事先のホテルに行くのだって、正直言えば気が進まない。
やっぱりこの計画自体が間違いだったのかも。
そう晶がため息をついた時だった。
「うん。分かった。今は大阪城ホールの脇を天守閣に向かって歩いてたとこ。うん、じゃあ後でね。」
いつの間にか誰かと電話していたひかりが晶にアイコンタクトを送ると同時に、ギャンギャン騒いでいた琥太郎もいきなり大人しくなる。
そして、20分後な!と、それだけ言うと一方的に電話は切れた。
「は?何?」
「ご飯食べちゃお。」
「ご飯は食べるけど!琥太郎が、」
「ま、想定の範囲内よ。朝の散歩だけしたら連れて帰る約束だから。」
「連れて帰る?」
「颯太くんが責任持って連れて帰るから大丈夫。どうせ9時にならないと天守閣に登れないしさ。」
「え?来るの!?」
「まぁそんなに人もいないし大丈夫だよ。きっと。」
確かにすれ違う人は疎で、ランニングとかウォーキングとか犬の散歩とか、そんな感じではあるけれど。
全く人がいない訳じゃないし。
朝の散歩ってひかりは軽く言うけど、白昼堂々と並んで歩くなんて大丈夫だろうか?
「いいじゃん、付き合ってよ。ハロウィンから後忙しくてほとんど颯太くんに会えてないんだもん。」
「え?そうなの?」
「仕事でトラブル続きだったんだよね。まぁ障害なんて全然珍しくないんだけど。」
「じゃあ、観光やめて向こう行く?」
「晶も筋肉に会いたくなって来た?」
「いや、最初から会いたくない訳じゃないよ?ただほら私はさ、はっきりと表立って事務所に迷惑かけたからさ、あんまり、ね?」
「晶が気にしても筋肉が気にしてないんだから気を使うだけ無駄じゃない?」
「まぁそうなんだけどさ。」
「東京じゃ外でデートするのも難しいし、そう考えたら良い提案でしょ?」
「良ければだけど、なんならそのまま颯太くんとデートしたら?会えてなかったんでしょ?」
「晶はどうするのよ。」
「え?私?私は勿論観光するよ!初めてだもん!大阪!お昼くらいに待ち合わせしてたこ焼きからスタートでも全然良いよ?それまで1人で楽しんで来るから!」
「あははは!晶ならやりそう!せっかくの気遣いだけどやめとく。颯太くんも仕事だし。」
「そっか。まぁ久々に会って気が変わったらいつでも言ってよね。」
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