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大阪城舐めてた。
天守閣までまぁまぁ遠い上に坂!階段!
結局くっ付いて来た琥太郎に手を引かれてやっと辿り着いた。
「ごめん!お待たせ!」
こちらに気が付いて顔を上げたひかりは晶と目が合うなり吹き出した。
「背後霊か!」
確かに背中には琥太郎がべったりとくっ付いていて、ひかりの方へ一歩踏み出そうとしても微動だにしない。
「琥太郎!」
「ねぇ、ひかりちゃんも大阪は初めて?」
「いや、仕事で何回か来た事はあるけど?」
「女の子2人で観光とか危なくない?」
「言うと思った。はい、颯太くん回収をお願いします。」
「はい。承知しました。よし、琥太郎帰るよ!」
「えっ!?お前!裏切り者!」
「裏切り者って何だよ。元々ちょっと顔出すだけの話だっただろ?俺たちだって集合10時なんだしそろそろ帰らないと。」
ニコニコ満面の笑みで正論を突きつけられてしまっては琥太郎も返す言葉がない。
琥太郎は黙ったままむくれた顔をしながらも晶から離れようとしない。
「琥太郎、仕事!」
「早いよ!まだ全然足りない!」
「仕方ないでしょ?仕事なんだから。」
「じゃあ夜!公演終わったら待ち合わせしよ?」
「だから、」
晶と琥太郎が口論になりかけたところにさっと割って入ったのは颯太だった。
「ハイおしまい。今夜はお寿司にしよう。予約しとくから。」
「えっ?」
「後でひかりに聞いてね。さ、琥太郎帰るぞ。」
琥太郎が気を抜いた一瞬のうちにぐいっと琥太郎の腕を引いて2人を引き離すと、颯太は「また後でね!」と爽やかな笑みを残して琥太郎を連れ去って行った。
「ひかり、お寿司って?」
「すんごいネタが大きい美味しいお寿司屋さんがあるんだって。」
「そこに行くの?夜?」
「だってめちゃくちゃプレゼン上手いんだもん。前に行った時の写真とか口コミとか沢山見せられちゃったら食べたくなるじゃん。」
鈴木賢いな。
ピンポイントで攻めて来たのか。
琥太郎みたいに今日これからの時間全てをくれと言われたらそれは無理だと答えるけど、夕飯だけ一緒に食べようって言われたら確かに夕飯だけならいいか?って思っちゃうもんな。
「あのホテルはキャンセルかな。」
「えっ!?」
「筋肉が諦めるとは思えないんだけど?」
「鈴木は何て?」
「筋肉が晶を離さないだろうから、もしホテルに1人になっちゃうなら危ないし自分のところにおいでって。」
「鈴木マジで賢いな。」
「で?どうすんの?荷物預けて来ちゃったけど?」
「琥太郎が眠りが浅いとか言うからちょっと心配ではあるけど、同じホテルに2泊ってさぁ、周りにも気を使うし。三角さんがなぁ。」
「明日は別階に雪ちゃんが部屋を取ってくれたみたいよ?」
「事務所的にはアウトじゃん。モラルの問題でしょ?公演後って言っても遠征中は一応仕事中じゃない?」
「まぁねぇ。」
「そう言う線引きはちゃんとしないとさ、琥太郎に流されてたら何でもアリになっちゃうしさぁ。」
「でもまぁあんたのところは夫婦だしね。」
「ワガママ言って結婚までしたんだから余計に気を使わなきゃいけなくない?普通は。」
「晶って本当に真面目だよね。感心するわ。」
確かに変なところで生真面目で、変なところに気を使い過ぎる癖があるのは自分でも分かってるけど、気になるものは仕方がない。
同じアイドルでもこれが弟の遼馬だったら全く気にしないで同じホテルに泊まるんだろうけど。
夫も弟もどっちも同じ家族だけど、やっぱり何かが違う。
勿論過去に大きな騒ぎを起こしたって言うのは理由としては大きいけどそれだけじゃなくて、誰にもバレない様にこっそり会うならまだしも、逆に夫婦だから余計に気不味いって言うか。
コソコソするのも堂々とするのもどちらも何だか違う気がするし。
「鈴木には悪いけどやっぱり今日は行かない。でもひかりは気にしないで行ってもいいよ?ただし琥太郎には絶対見つからないでね。」
「流石に私も颯太くんの部屋に泊まる勇気はないわ。颯太くんがこっちに来るならまだしも。」
「やっぱりそうだよね!?」
「そりゃあそうでしょ?」
問題は琥太郎だけど、さっきの様子を見れば颯太が何とかしてくれそうだし。
あわよくばひかりと2人で過ごせると思っているだろう颯太には悪いけれど、今日のところは我慢して貰うしかないだろう。
初めこそそんな事をぐるぐる考えていた晶だったが、天守閣に登って大阪の町をぐるっと見渡す頃にはすっかり観光を楽しんでいて、そんな小さな悩み事なんてすっかり忘れてしまっていた。
琥太郎の忠告も一応気にはしていて、街中で何度か声をかけられたものの、ひかりとふたりでしっかりとスルー。
念願のたこ焼きも串揚げも食べてビリケンさんの足の裏だってしっかり撫で回した。
親友と知らない街を観光するのは想像していたよりも楽しくて、明日も公演までの間は名一杯観光しよう!そんな話をしていた時だった。
「あ、颯太くんだ。出ていい?」
「どうぞ!どうぞ!」
ちょうど昼公演が終わる時間。
きっと幕が下がって急いで楽屋に戻って電話して来たんだろう。
今夜の宿の件、これは案外琥太郎よりも颯太を説き伏せる方が大変だったりして。
ニヤニヤしながら電話するひかりに目を向ける。
しかしひかりは、うん、うん、と受け答えをしながら真顔でこちらを見ていた。
「え?何かあった?」
会話の邪魔にならない程度に声を抑えてそう問いかけると、ひかりは頷いてそのまま晶の手を掴んだ。
「えっ!?何!?何かあったの?え?」
何があったのかも分からないまま、ひかりに手を引かれて大通りへ。
ひかりはタイミング良く現れたタクシーを停めるとそのまま晶をタクシーに押し込めた。
「えっ!?ちょっとひかり?」
「大学病院までお願いします。」
「はっ!?病院!?何!?」
「筋肉が倒れたって。今雪ちゃんが付き添って病院に向かうみたいだから晶も行って!」
「えっ!?琥太郎が!?」
「私はとりあえずホテルに戻っておく。後で落ち着いたら連絡頂戴。」
とにかく早く行きな!って強引にタクシーのドアを閉められてしまった。
琥太郎が倒れたって。
だって朝は何ともなかったのに?
突然の事で頭が働かない。
今朝の事が断片的にフラッシュバックするが焦っているのか考えがまとまらない。
漸く少し冷静になって、雪ちゃんへ連絡しようとスマホを取り出したところでタクシーも目的地へ到着した。
見るからに大きな病院。
ロビーに足を踏み入れてみたものの、琥太郎がどこにいるのかなど検討も付かない。
仕方なく一度外に出て雪へメッセージを送ると直ぐに返事が返って来た。
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