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「晶、早くこっち来て。」
「えぇ?マジで言ってる?」
「当たり前だろ?夜公演までには無理矢理でも熱下げないといけないし、体力はなるべく温存しときたいから早く!」
確かにめちゃくちゃ真面目な顔はしてるけど、コイツ熱でまともじゃないしなぁ。
普通に考えて添い寝って・・・
どう考えても晶の倫理観では劇場の楽屋で一緒に布団に入るなんてことは許容出来ない。
だけど今は一刻も早く琥太郎を休ませないといけない事も確か。
複雑な表情で琥太郎を見下ろす晶に、ついに痺れを切らした琥太郎は強引に晶を布団に引っ張り込んだ。
「あっ!ちょ!」
「はぁぁぁ!落ち着く!」
「琥太郎!」
「やっぱりコレだよ。この感覚。腕の中にピッタリ収まるこの感じ。」
「ねぇ!本気!?」
「本気。俺多分寝ちゃうけど離れたら分かるからな!?晶が離れたら絶対に起きるし俺の為にもお客さんの為にも晶はじっとしてて。」
「眠れそうなの?」
「うん。今めちゃくちゃリラックスしてる。」
「分かった。もういいよ。寝な。」
「ありがと!晶も朝早かったんだろ?一緒に昼寝しよ?」
「私寝たら多分起きない。」
「いいよ。昼寝して待ってて。」
「流石にそれはマズイでしょ。私の事はいいからもう寝なさい。」
「ねぇ、晶?寝る前に一個だけいい?」
「ん?」
「あのさ、おっぱいだけ触らせて?エロい意味じゃなくて!本当にただリラックスの為に!」
「勿論だめ。」
「なぁーんでぇ!いいじゃんよー!」
「おっぱい触ってそれだけで済んだ事ある!?ないでしょ?」
「ある!あるってば!最初の日!」
「あれをカウントすんな!大体アレだって大概アウトだからね?」
「じゃあお腹だけ。ふにふにさせて。」
良いよって言ってないのに、勝手に侵入して来たその手はウエスト辺りを弄り始めた。
「あぁぁぁ!シてぇ!」
「ちょっと!」
「分かってるってば。」
「もう手抜いてさっさと寝なさい!」
「うん。そうする。これ以上触ってたらマジで止まらなくなりそう。」
そう言ってそっと引き抜かれた手は服の上からぎゅっと晶を抱きしめた。
そして、おやすみ、そう小さく囁いた言葉の後。
ものの数分で規則的な寝息が聞こえて来た。
点滴とか解熱剤とか、多分薬の影響もあるだろうけど、きっと本当にここ数日は睡眠不足だったのかもしれない。
こんなところを誰かに見られでもしたら大変、そう思う気持ちは無くなった訳ではないけれど。
琥太郎が休めるならもうそれが一番に決まってる。
納得してしまったら体に入っていた力も抜けて、一気に眠気が襲って来る。
ああ、そうか。
私も同じなのかもしれない。
気が付かなかったけれど、琥太郎がいなかったからちゃんと眠れていなかったのかも。
そんな事をぼんやりと考えているうちに晶もまた琥太郎の腕の中で眠りに落ちていた。
遠くから聞こえるバタバタと動き回る物音と頬を撫でられる感覚にハッとして目を開ける。
そこには微笑みながらこちらへ手を伸ばす琥太郎がいた。
「ごめん!寝ちゃってた!」
「久しぶりに晶の寝顔見れた。」
「寝顔?やだ、ちょっとやめてよ!見ないで!」
「なんで?可愛いよ?もうちょっと見てたかったくらいなんだけど?」
「琥太郎時間は?まだ平気なの?」
「晶が起きちゃったからもうそろそろ支度始めようかな。」
絡み付く琥太郎の手をどけて起き上がると時刻は丁度公演の1時間前だった。
「具合は?少しは良くなった?」
「うん。大分良いよ。俺もぐっすり眠れたし。」
「そう。ならよかった。」
「晶はこの後どうする?客席?楽屋?ここでもいいけど?」
「あっ!ひかり!ヤバい!連絡してなかった!」
落ち着いたら連絡して、そう言われていたのにすっかり忘れてしまっていた。
慌ててスマホに手を伸ばす。
しかし手にしたスマホは琥太郎に取り上げられてしまった。
「あっ!ちょっと!?」
「ひかりちゃんには雪ちゃんが事情を話してくれてるから大丈夫。それよりあと5分だけくっ付かせて。」
「なんでそんな事知って、あ、え?雪ちゃんって、まさか私が寝てる間に?」
「一回様子見にね。」
「起こしてよ!恥ずかしい!」
「別にいいでしょ。雪ちゃんなら。」
「だって!具合悪い訳でもないのに私だけ1人でグースカ寝てたんだよ?いくら雪ちゃんでも、」
「気にしすぎ。そんな事どうでもいいからもっと俺を甘やかしてよ。5分だけ。」
弱っている琥太郎に拗ねた様な顔でそんな事を言われて図らずともちょっときゅんとしちゃったけど。
甘やかしてって急に言われても!
パッとそんな事出来るスキルは持ち合わせていないんですが?
考えてみたけれどこれと言った良い案なんか思い浮かぶ筈もなく。
晶は仕方なしに名一杯琥太郎の頭を撫でてやった。
「琥太郎頑張ってる!琥太郎偉い!えっと、うん、とにかく偉い!」
堪らず吹き出した琥太郎はそれでも心底嬉しそうに笑っていて。
多分きっと絶対琥太郎が望んでた甘やかすじゃなかっただろうけど、まぁこれはこれで。
「ありがと。晶のおかげで元気出た。」
「いや、私ぐーすか寝てただけだしそう言われると何だかちょっと後ろめたいけど、まぁ、元気が出たなら。」
「ごめんな。せっかくの旅行台無しにして。みんなにも迷惑かけたし次からは気をつける。」
「やっぱりまだ熱ある?琥太郎がそんな事言うなんて。」
「情け無い事に三角さんの言ってた事否定出来ないんだよ。晶と離れる度に体調崩してたら晶だって嫌だろ?」
「えぇ?たまたまじゃない?本気で寂しいから熱が出たって思ってんの!?」
「思ってる。絶対に無理な状況で諦めがつく時はいいけど、もしかして?って状況の時は三角さんの言う通り諦めがつかないしそればっかり考えちゃうし。寂しいからって言うよりはずっとその事ばっかり考えて仕事以外の事をマジで疎かにしちゃうから結果体調崩すのかも。」
「いやいや真面目か!」
「情け無いとこ見られたくないしお前に愛想尽かされたくない。」
「ぶっちゃけ私はそこまで深く考えてませんけども?」
「そうやって晶が俺の事甘やかしてくれるから俺も甘えちゃってた。だけど直す。直すからさ?」
「から?」
「頑張った時はご褒美ちょうだい?」
「ご褒美ぃ!?ご褒美って例えば?」
「晶がいなくても俺が頑張ろう!って思える事だよ。」
「だからそれは何!?なんか嫌な予感しかしないんだけど?」
「サプライズで突然会いに来てくれるとか、帰った時彼シャツで出迎えてくれるとか、あとは、」
「あっ!結構です!もうそれ以上は言わなくても!」
「ご褒美欲しい!そしたら俺頑張れるから!」
「子供じゃないんだから!遠征は帰るまでがお仕事です!」
「冷たい!晶が冷たい!」
「ね、もう5分経ってない?支度しないと間に合わないよ?」
「で、さっきの話だけどお前はどこにいるつもり?」
「一旦ホテルに戻るよ。荷物もあるし。」
「荷物は帰りに取りに行けばいいよ。」
「終わったら真っ直ぐホテルに帰って一刻も早く寝ないと。先にホテル行ってるからカードキー貸して。」
「カードキーは雪ちゃんがまとめて持ってるけどさ。舞台が終わった時が一番体力的にキツいから出来ればここで待ってて欲しい。だめ?」
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