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弱ってる琥太郎のワガママに嫌とは言えなくて、結局。
一部の間にホテルに戻って荷物を持って来て幕間で戻って来た琥太郎をあやして。
二部の間に琥太郎のホテルへ荷物を置きに行きがてら夜中の発熱に備えて色々ドラッグストアで買い物をしてから公演終わりの琥太郎を出迎えた。
私っていつからこんなに尽くす女になったんだろう?
面倒な琥太郎のワガママに付き合ううちにこうなったんだろうか?
やっぱり雪ちゃんの言う通り甘やかし過ぎ?
「晶ちゃん、どうする?先に帰る?」
「雪ちゃん!お疲れ様!今日は色々ありがとう。」
「だからこれが私の仕事だってば。」
「そうか。でもありがと。」
「ミーティング、大体1時間はかかるけどどうする?待ってる?」
今日の公演は無事終わったし、舞台から帰って来た琥太郎の様子もまぁ大丈夫そうだったし。
「帰る。」
「分かった。晶ちゃんご飯食べてないよね?ルームサービスでも良いけど一応東馬にお弁当2つ持たせるね。」
「いいよ!いいよ!気にしないで!帰りに何か買って帰るから。」
「仕出し屋さんのお弁当だからコンビニなんかよりも美味しいよ?食べて帰る時間もないでしょ?」
折角旅行に来たんだから何か美味しい物を食べに行きたい、そう思う気持ちが無い訳ではないけれど外食する時間は無い。
帰って先にお風呂に入ってしまわないと!
どう考えても琥太郎はやる気満々だろうけど流される訳には行かない。
寂しくて、会いたくて熱が出たなんて現実的には考えられないし、原因は分からないけれど高熱が出たと言う事は体調が悪いと言う事だし。
熱ってやつは良くなった様に見せかけてすぐに振り返すのがセオリーだから。
ホントは1人でホテルに泊まる事になってしまったひかりの事も気になるし夕飯くらいは一緒に食べたかったんだけど。
「じゃあ私はタクシーで先に戻ります。」
「うん。気をつけて。スタッフは一つ下のフロアにみんな泊まってるから何かあったらいつでも駆けつけるから!」
「ありがと。でも多分大丈夫じゃないかな。さっき戻って来た時もしっかりしてたし、琥太郎って昔から風邪ひいても翌日けろっとしてる事のが多かったからきっと明日には下がると思うよ。」
「さすが幼馴染。東馬の事何でも分かっててドンと構えてる感じ。きっとそう言うとこだね、東馬が甘えたくなるのって。」
「えぇ?バカは風邪ひかないってヤツだってば。」
「やだ。照れてる。可愛い。さっきとのギャップえぐい。やっぱそう言うとこだわ。うん。」
「ちょっと雪ちゃん!?」
「晶ちゃんの沼は深そうだねぇ。私も見習わなきゃなぁ。」
「雪ちゃんってば!もう!揶揄わないでよ。」
「あー!また可愛い顔して照れてるぅ!」
「ちょ!今写真撮った?やめてよ!」
「後で東馬に見せびらかそうっと!晶が写真撮らせてくれないー!っていつも愚痴ってるから。」
「もーっ!」
久々のマネージャー業務だからテンションが上がってると言っていた雪ちゃんに散々揶揄われて。
逃げる様に劇場を後にしたけれど。
1人でホテルのお風呂に浸かりながら考えたたらテンションがおかしいのは雪ちゃんだけじゃなかったかも、なんて。
予想外の琥太郎の熱でバタバタしてたけど落ち着いて考えてみたら、やっぱり私も久々に琥太郎に会えて、ちょっと、本当にちょっとだけテンションがおかしいかもしれない。
「なんか妙に恥ずかしいぃ・・・」
声に出してしまったら余計に恥ずかしい。
すっかり私も琥太郎に感化されちゃってるじゃん。
めちゃくちゃ好きみたいじゃん。
いや、別に夫婦なんだから好きでもいいんだけど!
寧ろ好きじゃなきゃ結婚なんかしないんだけど!
晶が1人で顔を赤らめていたその頃、ミーティングを終えて楽屋に戻った琥太郎は人目も憚らず猛ダッシュしていた。
「雪ちゃーん!?雪ちゃんどこー!?雪ちゃーん!!」
「おい!俺のだぞ!何かあったんだろうけどムカつく。雪ならさっき弁当受け取りに行くって言ってたから黙れ。すぐ戻る。」
「晶がいないんだよ!知らない!?」
「一緒にミーティング出てたんだぞ?俺が知ってる訳ねーだろ。三太か颯太か紘に聞けよ。」
いつも舞台終わりのミーティングに出るのは琥太郎と大澤だけ。
大澤は琥太郎と一緒にいたのだから状況を知る訳がない。
「アイツらどこ!?」
「この時間だと風呂じゃね?そろそろ出て来る頃だろ。」
「あっ!雪ちゃん!」
「おい!触んな!」
両手にビニール袋を下げて戻って来た雪にすかさず飛び付く琥太郎を大澤が無理矢理引き離す。
「晶は!?晶知らない!?向こうの楽屋にもこっちの楽屋にもいなくて!」
「ああ、うん、帰ったよ。」
「えっ!?帰った!?何で!?まさか、東京!?」
「んな訳あるか。ホテルに決まってるでしょ?ちょっと落ち着いて。」
「良かったぁ!マジでビビった!え?でもなんで?先に帰ったって、えっ?何かあった?えっ?まさかひかりちゃんのとこ?」
「だから落ち着けって!仕方ないな、ほらこれ見て深呼吸。」
「うはぁ・・かわいい・・」
「おぉ!効果絶大!」
「なにこれ?いつの?」
「さっきだよ。帰る前。照れた顔が可愛いから東馬に見せびらかそうと思って。」
「なにそれー!もっとやって?あ、それ送って。待ち受けにしたい。」
「おい。話逸れてるぞ。」
「え?ああ!そうだ!晶が先に帰ったって何で!?何かあった!?」
「無いよ、無い。ミーティング1時間くらいかかるなら先に帰るねって、それだけ。」
「俺の部屋だよね?鍵渡してくれたんだよね?」
「とっくに。帰る時晶ちゃん分のお弁当持って帰ってね。食べに行く時間はなかったと思うし。」
「雪ちゃんタクシー呼んで!3分で支度してくる。」
てっきりさっきの楽屋で晶が待ってると思ったのに、ミーティング終わりに急いで戻ったそこには晶はいなくて。
きっちりと畳まれた布団、片付けられた部屋。
演者の楽屋から離れたそこはやけにシンとしていて、だからこそ余計に焦った。
まだ慣れない。
鎮まり返った片付いた部屋には。
晶に電話をかけても応答がなくて。
一気に冷や汗が噴き出て、息も出来ないくらいの動悸が襲って来る。
手が震えてうまくスマホが使えない。
「いまどこ?」そう打つのが精一杯。
そんな訳はないと分かっているのに。
多分体調を崩しているせいだ。
暫く会えていなかったせいもある。
きっと。
晶がまたいなくなるなんて事はない。
絶対に。
やっと雪ちゃんを見つけて、状況を把握したけど安心などできる訳もなく。
シャワーも浴びずに劇場を飛び出した。
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