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どう考えても車の方が早いと分かっていても、信号待ちの度にタクシーから飛び降りて走り出したくなる。
じっと座って到着を待つのが苦痛で。
スマホをぎゅっと握りしめたまま窓の外の景色を睨みつけるしかない。
短く震えたスマホ。
画面には待ち受けに設定したばかりの照れ顔の晶と今表示された短いメッセージ。
"アイスたべたい"
そのたった7文字を見てガチガチに入っていた全身の力がフワリと抜けた。
"なにがいい?"
"高いヤツ"
"他には?"
"いちごチョコ"
"了解"
緩みきった口元をマスクで隠しながらコンビニに寄って。
リクエストされた物以外にもあれやこれやと買い込んで。
タクシーを降りるなり早足でエレベーターに乗り込んだ。
ルームキーは持ってないから部屋のチャイムを鳴らす。
開かれた扉の向こう、パジャマ姿の晶を見るなり飛び付いた。
「ちょ!ちょ!ちょ!待って!ドア!ドア閉まってない!」
両手に持っていたお弁当とコンビニの袋を雑に投げ出して、長いリーチを活かして力まかせにドアを閉めると一気に晶に覆い被さった。
「琥太郎汗臭い!お風呂入ってこなかったの!?」
先に風呂に入れと言って離れようとする晶を追い詰めて、両手を壁に縫い付けるや否や唇を塞いだ。
「んん!んーっ!」
何とか逃げようと踠く晶を壁に縫い付けたまま担ぎ上げたが・・・
ああ、ダメだ。
これじゃ手が塞がって触れない。
部屋の中へ移動する時間すら惜しいけれど。
仕方ない。
しっかりと担ぎ上げて歩き出した瞬間に唇が離れてしまって。
だけどキスをやめたくなくて首を伸ばして唇を追いかけたけれど・・・
晶の小さな手のひらに唇を塞がれてしまった。
「アイス!アイスが溶ける!」
「後でまた買って来てあげる。」
「アホか!下せ!」
「無理。待てない。」
「琥太郎!ダメ!マジで怒るよ?本気だからね!?」
「多分ルームサービスでもアイスくらいあるだろ?」
「アイスの話じゃないってば!とにかく下ろして!」
やっとちゃんと目を合わせて気がついた。
あれ、これは戯れていい雰囲気じゃない。
思い付く節は勿論沢山ある。
せっかくの女子旅をぶち壊した訳だし。
暫し無言で見つめ合っていたけれど、晶の表情は緩む事はなかった。
「晶、怒ってる?」
突然固まったかと思えば眉をハの字に下げた琥太郎がまるで叱られた子供みたいにそんな事を言い出すから危うく笑ってしまうところだった。
危ない。危ない。
ここは毅然とした態度でいる事が重要!
琥太郎の気持ちが分からないでもないし、久々の2人だけの時間だけど今最優先すべきは舞台だから。
「怒ってません。だからとりあえず下ろして。」
「ごめん!ごめんね?せっかくのひかりちゃんとの旅行、俺のせいで台無しにしちゃって。」
「だから怒ってないってば。それより早く下ろしてください。」
「怒ってないって、じゃあなんで敬語?」
「正確に意思を伝えるためだっつーの!いいから早く下ろして!」
「やだ!怒ってるもん!ごめんね?許して?俺何でもするから!」
「何でもするって言ったね!?」
「うん!」
「じゃあ下ろして。」
「それはやーだ!」
「お風呂入ってないんでしょ?汗が冷えてまた熱が上がる!さっさと私を下ろして琥太郎はすぐにお風呂!ちゃんとあったまって来なさい!今すぐ!」
「じゃあ晶も一緒に入ろ?」
「私はもう入った!その為に先に帰って来たんだから!」
「えっ!?何で!?」
「当たり前でしょ!?一緒にお風呂入って大人しくしてられる!?無理でしょ?」
「無理。」
「だから先に入ったの!」
「え?どう言う事?」
「あんたねぇ!今日舞台で倒れたんだよ?明日からも舞台は続くんだから!」
「それは分かってるけど・・・だけどそれと何の関係があるの?」
「は?だって琥太郎絶対無理じゃん。誘惑に勝てるとは思えない。」
「誘惑?」
「え?だから、裸見て何もしないでいられる?無理じゃない?」
「無理だよ?」
「だからだよ!変な気起こさない様に気を使って、」
「えっ?風呂でしたら危ないって事?」
「アホか!」
全然会話が噛み合わない。
琥太郎ってたまにこう言う天然みたいなところあるから驚きはしないけど。
「ちゃんと添い寝してあげるから。今日は大人しく1人でお風呂入って早く寝なさい。」
「はっ!?」
ビックリしすぎて思わず力が抜けた。
やっと地に足を付けた晶がひらりと腕を掻い潜り逃げ出したのを無意識的に追いかけて、ぎゅっと両手を握って顔を覗き込んだ。
「どう言うこと?」
「どうって?今言ったままだけど?」
「え?しないの?セックス。」
「する訳ないだろうが!こんな時に!」
「えっ?こんな時にって、いや、俺熱下がったし!」
「点滴打って解熱剤飲んで下がっただけでしょ?」
「違うって!マジ!マジでもう全然平気だから!」
「んな訳ないじゃない。バカな事言ってないで本当に早くお風呂入って来て!汗かいたまんまなんでしょ?」
「汗拭いて着替えたから平気。そんな事より晶は誤解してる!俺病気じゃないよ!?本当に!」
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