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12時まで我慢すれば!って本気で考えてたのに!
晶は絶対に気付いてないと思ってたのに!
「ねぇ、三角さんが言ってるのそう言うとこだと思うよ?諦めが悪いって。」
「俺だってマジで具合悪いなら諦めるよ?だけど今は本当に何でもないんだもん!そんな簡単に諦めなんかつくかよ!」
「元々明日来る予定だったんだしさ。明日になっても体調が悪くなってなければいいよって言ってるんだからさ。」
「俺は簡単に妥協しないタイプなんだよ!知ってるだろ!?」
そりゃあ知ってるけどさ。
何か違うと思うんだよね。
何かにチャレンジするとか、そう言うのなら分かるけど明らかに違うじゃない。
だけどこんな事言っても琥太郎は絶対に納得しないのは目に見えてる。
不毛な話し合いなんかしてないで早く休ませなきゃいけないのに。
仕方ない。
一か八かだけど賭けてみるしかないか。
晶は小さく息を吐いて、それからくるりと体を翻した。
色々刺激しない様に琥太郎に背中を向けていたけれど、意を決してしっかりと琥太郎と向き合って琥太郎の背中に手を回すと胸元に擦り寄る。
「えっ?」
「朝早かったし移動長かったし色々あって疲れちゃった。」
琥太郎が何か言葉を発する前に先手を打つ。
今の状況で正面から抱き付くなんてかなりの賭けではあったけど。
琥太郎は私に甘いから。
きっと。
「眠い?」
「眠いって程じゃないけど、電池切れ。疲れた。私体力ないし、旅慣れてないし。」
その言葉に琥太郎はふと過去の映像がフラッシュバックした。
あれは晶を捕まえて連れ帰った日。
お腹が空いたって騒いでいたのにみるみるうちに、そう、本当に電池の残量が減って行くみたいに元気がなくなって。
大丈夫、少し寝る、そう言って寝室に消えた晶は見事に発熱していて。
そうだ。そうだった。
晶に無理させたら体調を崩すのはあっという間。
今日は朝早くに東京を出て、半日だけど観光もして、倒れた俺に付き添って、劇場では気も使っただろうし。
「熱計ろ?」
「えぇ?大丈夫だよ。具合悪いとかじゃないから。」
「よく考えたらお前具合悪くても言わないじゃん。俺言われた事ないもん。」
「そうだっけ?言わなくても琥太郎が気付くからじゃない?」
「そう言う時もあるけど、気付かない時もあったし、お前が疲れたって言う時はよっぽどの時だから。」
いかん。
作戦は成功したみたいだけど予想外の過保護モードが発動してしまった・・・
いや、いいか?
これで正解かも?
疲れてるのは嘘じゃないし。
「測るよ。腕上げて。」
「大丈夫だよ。本当に。」
「ごめんな。無理させて。もし熱あったら病院行こ?今日のとこ、俺診察券あるから電話してみるよ。」
「熱はないって。ちょっとはしゃいで疲れただけだよ。」
体温計は平熱を示していて、晶もその表示にホッと胸を撫で下ろした。
曲がり間違ってちょっとでも熱があろうものなら琥太郎が大騒ぎするのは確実だし。
そうなればまた雪ちゃんを始め私には何の関係もない事務所の人たちを巻き込んでしまうだろうし。
「熱はないね。他に具合わるいとこない?」
「だから具合は悪くないの。疲れただけ。みんな琥太郎みたいに体力がある訳じゃないんだから。」
「夜中に具合が悪くなったらちゃんと起こして?いい?約束だよ?」
「分かったけど、本当に私は大丈夫。病気なのは琥太郎の方なんだから私に構わずちゃんと休みなさい。」
「俺は平気。体力あるし。」
「琥太郎、寝よ?おいで。」
全然他意なんかなかった。
ただ私の熱を測る為に起き上がった琥太郎を寝かせようとしただけ。
本当にそれだけだったの!
無意識で両手を広げただけだったの!!!
あっと言う間に琥太郎が覆い被さって来て。
唇が触れたと思ったら次の瞬間には舌が絡みついて来て。
ハッとした時には琥太郎の指先がパジャマの中へ滑り込んでいた。
「違う!違うって!そう言う意味じゃない!」
琥太郎の肩をありったけの力で押し返しながら必死に弁明すると、琥太郎もハッと勢い良く晶から離れてくれた。
「ごめん!条件反射で、つい。」
「いや、まぁ、うん。大丈夫。紛らわしい言葉だったかも。こっちこそごめん。」
「言い訳みたいに聞こえるかもしれないけど、俺本当にそんなつもり無くて!」
「分かってる。分かってるよ?大丈夫。」
「疲れてるんだもんな。また熱出したら大変だし。」
「ただ疲れただけだから寝たら元気になるよ。明日の夜公演は観に行くし、午前中は今日行けなかったところ行くつもりだし。」
「え?明日も観光すんの?」
「だってじゃあ夕方までどうやって時間潰すのよ?せっかく大阪まで来てるのに勿体ないじゃん。」
「疲れてるなら寝てれば?」
「いやだから一晩寝たら平気だってば!」
「危ねーじゃん。女の子だけで観光なんて。」
え?デジャブ?
間違いなければ今朝もこんな会話しなかったっけ?
「変なとこには行かないから安心して?朝早く起きられたらUSJもありだし、アメリカ村にも行ってみたいし。先ずはひかりと相談だけど。」
「今日ナンパされた?」
「え?さ、されてない。うん。」
「絶対されてるじゃん!」
「会話はしてない!聞こえないフリしたし!第一本当に私たちに声かけたか分かんないし?総じてナンパはなかったって事で。」
「ムカつく!やっぱダメ!2人きりは危ない!」
「えぇ?」
「何か分かるもん。東京の子だって。絶対に狙われやすいもん!ダメだよ!本当に!」
何で東京から来たって分かったら狙われるんだよ。全然意味分からない。
だけどまともに受け答えしてたら多分いつまでもこの会話は続くに決まってる。
「分かった。とりあえず寝よ?明日ひかりに連絡取ってみないと何も分からないし。」
「はぐらかす気だろ?マジで危ないって!」
「はぐらかしてないって。ちゃんと大人しくしてるから!だからもう寝るよ。」
「心配なんだよ。こっちの人ってグイグイ来るし。」
「アラサー相手にそんなにグイグイ来る人いないって。心配しすぎ。」
「俺のいない所で声かけられるのとか無理!肩とか腕とか触られたりしたらマジで本当にやだ!つーかまず他の男の視界に入るのが無理!」
「琥太郎、寝るよ。」
「聞いてる?晶は危機感なさ過ぎるから!」
「はい、目ぇ瞑って。お口にチャック。はい、おやすみなさい。」
「まだ話してる!」
もう何を言っても無駄なのは明らか。
返事をしたら負け。
寝るに限る。
いや、寝かせてくれ。
今朝は早かったし、色々あって疲れたし。
それに何よりも。
久しぶりの琥太郎の匂いと体温が猛烈に睡魔を引き寄せる。
本当は琥太郎が眠るのを見届けようと思ったけど、これは無理だわ。
「晶?ねぇ、聞いてる?」
俺の真面目な忠告を無視して狸寝入りしてるとばかり思っていたのに、聞こえて来たのは規則正しい静かな寝息。
そっと少しだけ体を離して胸元に収まっている晶の顔を覗き込む。
「本当に寝ちゃった。」
久しぶりに見たその寝顔に自然に笑みが溢れた。
幸せってこういう事だと自覚する。
頬を撫でたり、髪を漉いたりしながらたっぷりとその寝顔を堪能して、枕元のスイッチで部屋の電気を落とすとぎゅっと晶を腕の中に閉じ込めた。
「かわい過ぎなんだよ。まったく。」
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