番外編 くらげ姫の小旅行

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「ごめん!遅くなった!」 「はよー。どう体調?」 「もう全然。」 「マジかよ!お前ホントに晶不足で熱まで出した訳!?ウケるんだけど!」 朝から三太に笑われても悪い気はしない。 今なら何を言われても全然平気。 すこぶる体調は良いし、機嫌もいい。 「行かねーの?」 ロビーのソファーに座ったままスマホをいじる雪は顔も上げずに言った。 「颯太待ち。今起きたって。」 「あいつが寝坊?珍しいな。」 三太は気付いてないみたいだけど、俺には分かる。 そして雪ちゃんにもきっと分かってる。 暫くして起き抜けそのまま出てきたと言った颯太は、寝癖どころか肌艶も良くて。 昨夜何があったのかなど聞くまでもない。 「晶ちゃん起きてる?」 「勿論寝てる。」 「やっぱりそうだよね。」 「もしかしてひかりちゃん連絡くれてた?」 「いや、多分ひかりもまだ寝てるかな。」 「そしたらさ、あいつ多分昼くらいまでは動けないと思うから、伝えといてくんねぇ?」 「分かった。メッセージ入れとく。」 「今日はこっち泊まるんだろ?何時くらいに来るとか聞いてる?晶に連絡入れとく。」 「ひかりは1日早くチェックインしたよ。俺らの上の階。ツインの部屋だからか風呂が気持ち広かった。」 「お前が向こう行ったのかと思ってた。」 「荷物だけ取りに行った。ほら、レディースプランの予約だったから俺部屋に入れなくてさ。」 「ああ、それで?」 「そ。たまたま部屋空いてたから。」 「じゃあ晶にそう言っておく。」 「うん。琥太郎熱は下がったみたいだね。」 「おかげ様でもう全然。ひかりちゃんには迷惑かけちゃったよな。今度どっかで飯でも奢る。」 「今夜?」 「今夜はだめ。お前と違って俺は朝まで我慢したんだから全然足りてねーんだよ!東京戻ってからな。」 了解って爽やかに笑う颯太。 今回の件で一番得したのは間違いなくコイツで、さっきはお詫びに飯奢るなんて言ったけど逆じゃね? 俺が感謝される立場だよな? いつもより20分遅れでホテルを出発したけれどそれ以外は特に問題もなく。 劇場に着いてからはいつも通りのルーティンを黙々とこなして行く。 いつもと違うのは携帯を手放さない事くらい。 起きたらメッセージしてってメモも残してきたし、勿論メッセージでも送ってある。 今朝は晶にほとんど発言権を与えないまま好き勝手した自覚もあるし、そのまま気を失うみたいに寝落ちしてしまったから謝る事も出来なくて。 多分大丈夫だと思うけど。 晶の機嫌を悪くしていたら全力でフォローしなきゃいけないから。 ブーブーと短く鳴るバイブレーションにハッと目を開ける。 遮光カーテンが閉まったままで真っ暗な室内で唯一の光源はメッセージを受信した携帯のみ。 「11時過ぎてる・・せっかくの大阪が!!」 ガバッと起きてがっくりと項垂れてからはたと気がついた。 そういえば琥太郎は大丈夫なんだろうか? メッセージアプリを開いて琥太郎からのメッセージに一通り目を通してみたら、どうやら熱も下がって体調も問題なさそう。 今朝は半強制的に起こされて何が何だか分からないままだったから琥太郎の体調を伺う余裕なんかなかったけど。 いや、待てよ? どう考えても病人なんかじゃない。 早朝からあれだけ動けるなら具合なんか悪いはずがない。 どっちかと言えば私の方が絶対に疲労困憊してる! おかげでこっちは体じゅう怠いしあちこち痛いしせっかく大阪まで来てるって言うのに寝坊しちゃうし。 それもこれもみんな琥太郎のせい。 いっそのこと夜公演をキャンセルして観光にでも出かけてやろうかと思ったけど。 また琥太郎が大騒ぎするのは目に見えてる。 琥太郎が騒ぐだけならいいけど、事務所のスタッフさんにも迷惑かけちゃいそうだし、いや絶対にかけるだろうし。 チラッと頭を過った三角さんの横顔はフルフルと頭を振って追いやった。 そういえばひかりはどうしたんだろう? 昨日ホテルを出る時には夜颯太くんに会うから心配しないでねって言ってたけど。 携帯にひかりからのメッセージは届いていない。 とりあえずベタベタした体を何とかしたくて手早くシャワーだけ浴びて、ひかりに連絡を取ろうとした瞬間携帯が鳴り出した。 「もしもし?」 「おはよ!ゆっくり眠れた?」 「おかげ様で貴重な午前中を無駄にしちゃったけどね!」 「ごめぇぇん・・怒ってる?」 「別に!それより体調は?」 「うん!めちゃくちゃ良いよ!大阪来て一番コンディションいいかも!」 「ちゃんと熱計りなさいよ?風邪ひくの慣れてないんだからまた昨日みたいに気が付かないで倒れたらみんなに迷惑かけるよ?」 「風邪じゃないもん!」 「あ、そういえば時間!もう本番じゃないの?」 「今風呂出てこれから支度。連絡無いし心配だったからさ。ちょっと強引だったし、今朝。」 「ちょっと!?ちょっとなの!?」 「ごめんってば!だってずっとお預けだったんだもん。仕方ねーじゃん。」 「TPOって言葉を覚えた方がいい。絶対。」 「でも加減したよ!?ちゃんと考えて我慢した!」 「我慢って!あれのどこが!?」 「俺の事舐めてんの?」 「あのねぇ!いや、もういいわ。話すだけ無駄な気がする。いいから早く支度して。怪我しない様にね?」 「今日何時に来る?」 「17:30からでしょ?開演には間に合う様に行く。」 「これから支度して観光に出かけるには時間が中途半端じゃない?だったらさ、」 「行かないからね?」 「まだ何にも言ってない!」 「とにかく舞台は見に行くけどそれだけ!終わったらひかりと食事して、」 「えっ?待ってよ!ひかりちゃんと?」 「昨日の埋め合わせに夕飯くらいご馳走しないと。」 「ダメだって!そんな時間ないから!」 「この話は後!とにかく支度して。もう時間ないでしょ?切るよ?」 「ちょ!飯は俺が東京戻ったら奢る話になってるから!」 「琥太郎?支度しなさい!」 琥太郎はまだ何か言っていたけどそんな事を構もせずに強制的に会話を終わらせた。 とりあえず体調は大丈夫そうだし。 何より琥太郎は大事な本番前だし。 普通の仕事をしている人だったら仕事中に用事もないのに私用の電話なんてありえない事だし。 琥太郎を甘やかしてるって昨日雪ちゃんにも言われちゃったから。
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