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だけど、もしかしたら。
私の態度がいけないのかもしれない。
琥太郎は物心ついた時から隣にいて、お互いの事は何でも知ってるし、考えてることだって大体分かってしまう。
だけどある日突然恋人になって、あれよあれよと言う間に夫婦になって、琥太郎の接し方は間違いなく幼馴染の時とは変わった。
でも私は?
2人の関係が変わってからも特に何も意識してなかったかもしれない。
特別な存在であった事は前から変わりないけど、もしかしら私の態度は琥太郎には物足りなかった?
確かに琥太郎はよく甘えて欲しいって言う。
甘えるって言われたって正直どうしていいか分からないし、何より私が何かしなくても琥太郎が私を甘やかそうとするから。
わざわざそんな事する必要もタイミングもなかった。
もしかしたらそれが原因?
あの異常なまでの執着、いや、溺愛は。
私の態度がいつまでも幼馴染の時と変わらないからなの?
ふと頭に過ったその考えが何だか本当に当たってる様な気がして来た。
もうちょっと私が愛情表現をすれば琥太郎も満足して落ち着く?
相談したひかりは少しだけ怪訝そうな顔をしたけど、晶がそう思うならやってみれば?って。
せっかくの大阪だけど観光はせずに、ひかりの提案でデパートで普段着ない様なワンピースを買って、コスメカウンターでメイクも直して貰って、サロンで髪を整えて。
コスメカウンターのお姉さんに教えてもらった何だか有名らしい一口稲荷寿司を手土産に、絶対に行かないと宣言していた開場前の劇場に足を踏み入れた。
「雪ちゃんわざわざごめんね。」
「今日は招待客もいないし忙しくないから全然平気だけどさ、東馬に内緒って何か理由があるの?」
「その方が良いからってひかりが。」
「ひかりちゃんは?」
「行ってみたいパン屋さんがあるって言うから後でロビーで待ち合わせ。」
「えー!どこだろ!?私も気になる!」
「何だかオフィス街にあるらしいよ。」
「後で教えて貰お!じゃあひかりちゃんはこっち来ないんだ。颯太ガッカリだ。」
「私もちょこっと顔出したらすぐお暇する。」
「普通に無理じゃない?」
「いや三角さんに会ったら気まずいし。とりあえず顔出すだけでいいの!そしたら琥太郎も満足するから!」
雪ちゃんに劇場の裏口まで迎えに来て貰って中に入ったまでは順調だったけど、いざ楽屋の前まで来ると。
これ本当に効果あるんだろうか?
めいいっぱいキレイにしてサプライズで会いに行けば筋肉めっちゃ喜ぶ事間違いなし!ってひかりが言うからその通りにしたけど。
これが愛情表現に繋がるのか?
琥太郎が求めてるやつ?
厳密に言えば喜ばせたいって訳じゃないんだよなぁ。
何か違う様な気もして何となく楽屋の手前で立ち止まっていると、ちょうど暖簾を潜って出て来た三太とバチっと目が合った。
「おまえそんなとこで何してんの?」
「え?いや、ほら、」
「は?何?」
「だから!ほら!お腹!お腹空いてるんじゃないかと思って!」
手に持っていた紙袋をぐいっと三太に押し付ける。
三太は紙袋を覗き込んでから目線を上げた。
「お前なんかいつもと違くね?」
「は?」
「化粧変えた?」
「えっ!?いや!だから!」
「服も何かいつもと違くね?何かあった?男でも出来たみてぇ。」
「なっ!ちょっと変な事言うのやめてよね!」
思わず出た大きな声に真っ先に反応したのは三太ではなかった。
バスローブ姿で楽屋から飛び出して来たのは勿論琥太郎。
晶の顔を見るなりぱぁっと顔を輝かせ、そして一瞬のうちに曇らせた。
「え?なに?」
「三太早く風呂行けよ!それで長風呂して来い。」
「はぁ?」
「いいから!晶はこっち!」
ぐいっと腕を掴まれてまるで引き摺り込まれる様に楽屋の中へ。
「なんで!?」
「え?何でって?」
「さっき電話で来ないって言ってたじゃん。」
「そうだけど。来たらまずかった?」
「その服どうしたんだよ!メイクも!何があったか正直に答えて!」
「え?いや、だから、楽屋見舞いって言うか、お稲荷さんの差し入れに。」
「違う!そのワンピースとメイク!まさか1人で来たの!?ひかりちゃんは!?」
「ひかりはパン屋さんに、」
「えっ!?1人で来たの!?どこから!?変な奴に声かけられてない!?まさか電車!?」
「いやタクシーで来たけど。」
「良かった。いや、良くない!どうしたんだよ!そのワンピース!」
「どうしたって、買った?」
「買った!?いつ!?」
「さっき。大丸で。」
「さっき!?何で!?スカートなんか危ないだろ!?」
「は?危ない?」
「足!見えてる!」
「いや膝丈だよ?」
「みんな見るだろ!?大体メイクもいつもと違うし、何があった!?ちゃんと話して!?」
「何があったって、別に何もないんだけど。」
「何もない訳ないだろ!?」
「無いってば!ただ、」
「ただ!?」
「だから!ちょっとキレイにして会いに来たら琥太郎喜ぶかなって。」
「え?俺のため?」
「いや、琥太郎の為にってそんな大それた話でもないけどさ。」
「俺の為だけに可愛くしたの?」
「だからそんな大袈裟な話じゃないけど!」
険しい顔つきが一変、ふにゃりと目尻を下げた琥太郎はすぐさま晶を思い切り抱きしめた。
「ぐぇっ!強すぎ!強すぎるってば!」
「だってお前があんまりにも可愛い事するから!」
「苦しいってば!」
「ごめん。でもやっぱり無理!可愛すぎ!」
「ぐぇっ!ギブ!ギブ!」
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