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「どうだ?」
老婆が聞きますと、女の人が答えました。
「まぁ、形は良くないけど、食べれないこともないわ」
「ほぅ」
老婆が首をかしげ、今度はキュウリを一つもぐと、女の人に手渡してやりました。
女の人がキュウリを一口食べると、パリッと砕けるような歯応えで、中からほのかにあまい水があふれて、女の人の疲れきった体を潤していくのでした。
「どうだ?」
老婆が聞きますと、女の人が答えました。
「まぁ、水っぽい感じはするけど、食べれないこともないわ」
「ほぅ」
老婆が首をかしげました。
「あんたは、一体何のために、ここへきたんだい?」
老婆が女の人に尋ねました。
「いえ、カラスに森の奥へ行ってみるといいと言われて、やってきたまでよ。たまたま、通りががっただけ」
女の人が答えました。
「なら、もう帰りなさい」
老婆が言いました。
「まだ、チシャを食べていないわ・・・・・・」
女の人が言いました。
「あんたは、何を食べても同じだよ。これは、私の心を込めて作った野菜だ。あんたは、あんたの野菜を食べるがいい」
老婆は言いました。
「じゃあ、この暗い森で、どうやってこの野菜を育てたのか、聞かせてほしいわ」
女の人が言いました。
老婆の目がきらりと光って、女の人を見つめました。
「・・・・・・ただ、ただ、耕すまでだよ」
老婆がそう言うと、女の人が叫びました。
「そんなばかなことないわ!こんな暗い森で耕し続けるなんて!!そんなやり方は、聞いたこともない。こんな野菜なんて、まっぴらよ」
女の人は腹をたてながら、元来た道をずんずん帰っていきました。
元来た道を歩きながら、女の人の体はみるみる軽くなり、歩みはだんだんと
早くなり、しまいに足は地を離れました。
女の人は、体とともに、心も軽くなるのを感じました。
(ああ、これで私は自由になるのね。)
女の人は、心の中でつぶやきました。
その日、森の木々の間から、一羽のカラスが現れて、大空の向こうへ飛び立ちました。
明るい太陽を目指して、飛び続け、その黒い姿は見えなくなりました。
おわり
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