金のりんご

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 二度とお父さんに会えない。  娘の心は、悲しみでいっぱいになりました。  しかしながら、父親の元気な姿を見てみたい。  その想いは、変えることができませんでした。  娘は、蛇から受け取った玉子を二つに割ると、中の玉子をすべて食べました。  王様の庭では、金のりんごを取ろうとした勇者が、虎に食べられてしまいました。 「またか・・・・・・」  王様は、がっくりと肩を落とし、忌々しい虎を睨みつけました。  虎は、金のりんごの木を背に、意気揚々と立っていました。  みな恐れをなして、ただ見つめるばかりです。  そのとき、空に一羽の白い鳥が現れました。  音もなく、王様の庭に飛んできました。  翼が大きく、くちばしのするどい、のどのふくらみのふくよかな、それは立派なペリカンでした。  ペリカンは、王様の庭のリンゴの木の真上まで来ると、そっとりんごの木に止まり、金のリンゴをもぎとり、のどの袋にいれました。 「なんてことだ!それは、わしの金のりんごだ!!」  王様が叫んだとたん、虎は目が覚めて、暴れだしました。  王様や家来は、ちりじりに城の中へ隠れていきました。  ペリカンは、りんごの木から舞い上がると、再び空へ飛んでいきました。  森の中に、トタン屋根を乗せた丸太の家がありました。  家の中では、病にふせった男がひとり、ベッドの上で横になっていました。  もうすぐ、娘が町から帰ってくるころです。  トントン、トントン、トントン・・・・・・  丸太の扉をたたく音が響きました。  娘なら、すぐに入ってくるだろうに、おかしいなと思いながら、男はベッドから出ました。  病んだ体は重く、立ち上がるとふらふらと揺れて、男は何度も倒れそうになりました。  ようやく、扉にたどり着いて、扉を開けました。  扉の外、玄関の階段の一番上に、太陽の光を浴びて、輝く丸いものが見えました。    男が、その丸いものを拾って、まじまじと見ますと、それは金色に光るりんごでした。 「これは、金のりんごだ」  男は驚きながらも、昔聞いた金のりんごのおとぎ話を思い出していました。  王様の庭に生えているりんごの木になる金のりんごの話です。  食べたものは、全ての病が癒えるのです。  男は、夢でも見ているかのような面持ちで、金のりんごを一口かじりました。  金のりんごを一口かじったとたん、男の青い顔色は、みるみる血の気が指し、バラ色に光り、髪は艶めき、その手、足、腕に、脈々と力がみなぎっていきました。  男が、金のりんごを食べ終わったとき、そこには一人の若く力強い男がいました。    その目は、希望に満ち、口元に大きな微笑みが浮かんでいました。  娘に、会いたい。  体の呪縛から逃れることが出来た男の脳裏に、幼き日の娘の姿がよみがえり、少しずつつ大きくなっていくのでした。    そして、今、男のふせるベッドの横で黙々とかごを編む娘の姿がありありと思い浮かんでいました。  男は、森の奥に消えていく道の向こうから、娘が帰ってくる姿を待ちました。  丸太小屋のトタン屋根には、ペリカンが一羽止まっていました。  男が金のりんごを食べて、みるみる力を取り戻す姿を見届けると、音もなく飛び去り、森の奥深く目指して、飛んでいきました。  おわり
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