金のりんご

1/3
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
 むかし、むかしのことです。  長い間、病にふせった父親がいました。  一人娘が、木のつるで編んだかごを売りながら、父親を世話して暮らしていました。  母親は娘が物心つく頃に、病で死んでいました。  娘は、妻を早くに亡くし、若い頃に病にふせった父親には、良い思い出がないのではないかと、いつも心を痛めておりました。  父親の病が治ってほしい。  それが、娘の願いでした。  ほんの少し残ったお金を蓄えて、効果があると聞いた薬を町で買っては、父親に飲ませますが、良くなりはしませんでした。  ある日、町の炉端の片隅で、娘がかごを売っていますと、目の前に蛙が一匹跳び跳ねてきました。 「かごを一つくださいませんか?」  蛙が娘に尋ねました。  娘は、どんな姿のお客さんでも、お客さんにかわりないと思いました。 「いいですよ。どのかごにしますか?」  娘が聞きますと、蛙はふくれた腹をさすりながら、言いました。 「あー、これ、これ。このかごいい」  蛙は、自分の体の何倍も大きなかごを一つ選びました。そのかごは、娘が何日もかけて、特に丁寧に編んだかごで、飾り模様の花柄が編み込まれた美しいかごでした。 「今度、妻をもらいましたので、このかごを新居にしたいと思います。けれども、私には人間のようなお金はありません。その代わり、良いお話を一つさせていただきましょう」  蛙は、頭から飛び出した両の目をきょろりとさせて、娘をうかがいました。  娘は、しゃべる蛙に初めて会いましたし、妻をもらったばかりだというので、せっかくなので祝ってあげたいと思いました。  それに、良い話というのも聞いてみたいと思いました。 「いいですよ」  娘は、言いました。  蛙は、両の目を大きく見開き、頷きました。 「それでは、お話しましょう。王様の庭に生えているりんごの木には、金のりんごがなっています。その金のりんごを食べると、どんな病も治り、不老不死になるのです。しかし、そのりんごの木は、大きな大きな人食い虎が守っています。代々の王様は、その金のりんごを食べたくて、代わりのものに取りにいかせますが、みんな大きな虎に食べられてしまい、結局誰一人として、金のりんごを食べた者はいません」 「まぁ、そんなりんごがあるものなんですねぇ」  娘は目を丸くしました。 「ええ。あるんですよ」  蛙は、にんまりと笑いました。 「それでは、かご、頂いていきますね」  蛙は、娘の編んだ花柄の美しいかごを背負って、道の真ん中をぴょん、びょんと跳びはね、去っていきました。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!