まちあわせ

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 明け方の日が指し始めた大山の山道を、人里めがけて、駆けてくる女の子がいました。  手には、咲ききった唐梅の小枝を握りしめています。  息を切らす女の子の頬は、真っ赤です。  休まずに駆けたものですから、女の子は、幾時もかからず、人里の村に着きました。  女の子は、村の路地に入っても、砂利に足をとられ、よろけながら、駆け続けました。  道すがら、たった今、畑からとってきたばかりの大根を背負ったおばあさんとすれ違いました。  おばあさんは、大根の重さに負けじと、曲がった腰をますます折って歩いていましたが、女の子とすれ違いざま、甘い匂いが強く香って、思わず顔を上げました。 「あれー、唐梅でないか?」  おばあさんは、女の子の後ろ姿に呼びかけました。 「そうだよー。妹にあげるんだ」  女の子は、振り向きざまに叫ぶと、地面についてしまいそうな着物の袖を揺らし、けたけたと下駄を鳴らして、砂利道を駆け抜けていきました。 「そんなに急がんでも。日はまだ高いけー」  おばあさんが叫び返すと、女の子のけたけたと笑う声が響きました。  女の子の無邪気な笑い声を背に、おばあさんは首をかしげました。  はて、唐梅はとっくに散りよったがなぁ・・・・・・。  女の子はとうとう村の外れまで駆け抜けて、田んぼのあぜ道までやってきました。  そこで、女の子は、ようやく足を止めました。  どこまでも続く田んぼが広がっています。  田んぼの真ん中に、南高梅が1本立っていました。  南高梅の幾千の枝には、幾万ものつぼみが顔を出しています。  すると、その南高梅の下に、若草色の目をした、ちんまい女の子が立っているのが見えました。 「おーい、みはるー」  村から駆け続けた女の子の足取りは、あぜ道の柔らかさに頼りなげに、ふらつきました。それでも、女の子は唐梅の枝を握りしめた腕を高々と振りあげました。 「ねぇちゃーん」  南高梅の根元から、みはるは短い足をよたよたさせて、あぜ道へ踏み出しました。  すぐそこに、姉ちゃんがいます。  顔いっぱいに笑う姉ちゃんと目が合って、みはるはたまらず、その胸に飛びこみました。 「会いたかったよ、姉ちゃん」 「また、大きくなったね。みはる」  姉妹は、互いの肩に顔をうずめ、しばらくだきあっていました。  そこへ、山から一陣の風が吹き抜けて、二人の肌をなでました。  二人は、互いの肩から顔を上げました。
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