青虫

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 真夏の太陽が照りつけるアスファルトの上をはう1匹の青虫がいた。  青虫は、ついさきほど生まれたばかりであった。  しかし、はっている間に、アスファルトにたどり着き、知らぬ間に自分がどこにいたかも忘れていた。  今、青虫の頭の中に浮かぶのは、ただただ体が焼けるように熱いという感覚だけだった。  青虫は、この暑さから逃れたい、その一心ではっていた。  その青虫を、空高くから見ている者があった。  雀であった。  雀は、ちち、ちち、ちいーっと鳴いて、アスファルトに降りると、そのくちばしに青虫をはさみ、空高く舞い上がった。  人里を目指して。  人里には、民家が一軒。    軒先に、枯れ木やどろでこさえた巣。  巣には、生まれたばかりの幼い雛が4羽、めいいっぱい口を開けていた。  雀は、4羽の雛のうち、一番体の大きい雛の口に青虫をほうった。  雛はすばやくくちばしを閉じて、青虫の腹をはさみにかかった。  ところが、一番大きな雛の腹を、隣にいた雛が蹴飛ばした。  大きな雛は、前につんのめり、今にも巣から落ちかけた。  青虫は、雛の口先をかすめ、下へ落ちていった。  落ちていく青虫の目に、雀の巣が映る。  巣から雛が1羽、落ちていく。  その時、風が吹き、青虫をさらった。  風は、林をぬける。  やむことなく、吹きすさむ。  丘を越え、アスファルトを見送り、思いのままに。  青虫は、風の中で眠る。  夢を見た。  青い青い海が広がる水平線。  赤土に萌える菜の花の黄色い揺らめき。  菜の花の陰に身を寄せ、涼む。  水平線から吹く潮の香りに、気づく。  ここが良い。  青虫は、思い立つ。    菜の花の茎と自分の体に糸を吐き、一つになる。  そして、深い眠りについた。  南の海の静かな夜。  十六夜の月が、夜空に輝く。  銀色の波間に、紫色の羽が浮かんでいた。  それは、一匹の蝶ちょであった。  蝶ちょは、自分のすべてを覚えていない。  目を閉じて、眠りにつく蝶ちょ。  羽は動き、思うままに海をわたっていった。  おわり
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