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樹海の男に連れられて行ったのは、埼玉の自然の豊かな場所だった。
白い洋館のような一軒家だった。
壁は、薄黒くなっていたりひび割れているので新しくはない。
玄関の辺りは草がボーボーに生えており、なんとなく陰気を感じる場所だった。
あつしは玄関の前に立っている。
そして、さっき車の中で樹海の男に言われたことを思い出していた。
~~「50過ぎの女が住んでいる。その女は精神病を患っているから、きっとお前のことは夫だと思い込むだろう。そのまま一緒に夫婦として住むこと。男は建設会社を営んでいて、お前がそれを引き継ぐ。いいじゃねぇか、前の仕事と少し似てるじゃねえか」
渡されたカギを、握りしめる。
その手は、かなり汗が滲んでいた。
ガチャ
ゆっくりドアを開ける。
バタバタと2階から音がして、女が走って駆け下りてきた。
髪はぼさぼさ、ノーメイクの女が驚いた顔で立ちすくむ。この女が妻だろうか。
「とおるさん……帰ってきたのね!よかった」
女は、あつしに抱きついた。
あつしは、車の中での樹海の男との会話をまた思いだした。
~~「お前の新しい名前は、堀尾とおるだ」
あつし、改め堀尾とおるの後ろで玄関のドアが、バタンとしまった。
ドアが閉まったのを確認た樹海の男は、車を出して去っていった。
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