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「今からなんて…そんな……」
「あっちに車止めてある」
樹海の男は、さらっと言う。
「せめて妻子の顔をもう一度……」
「……」
樹海の男はしぶしぶ承諾した。
家に帰ったあつしは、妻に懇願した。
「頼む。俺と一緒に逃げてくれないか」
「へ?何言っているの?」
「何も言えないけれど、命の危険が迫ってきているんだ。頼む!」
切羽詰まったあつしに、恐怖を抱いた妻は、あつしの言うとおりにすることにした。
少しの大事なものを持ち、子供も連れて車で出発した。
「あなた、どこに行くの?」
不安そうな妻。
「ひとまず…東京にいくよ」
「え?東京? 嫌だ、帰りたい」
妻は泣き始めた。
妻の言うことは、もっともである。
あつしもそれは分かっていたが、聞こえない振りをした。
家族の未来のためにこうするしかないんだ。
そう、自分に強く言い聞かせた。
しかし、東京に行ったところでどうするのか。
それも考えないようにしていた。
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